「チビリス、お前の大好物は芹霞でいいな?」

「勿論さ!!」


判って訊いてからなんだけど、迷いないその答えは面白くねえ。

相手はこんなチビでリスなのに、妬いてしまう俺も大概馬鹿だ。

何で櫂のように、大きな心で許容出来ねえのかな、俺って。


「よし、宣言する。俺とチビリス、共に大好物は芹霞!!」


俺もリスも好物が一緒なら、攻撃対象はより絞られ単純となる。

つまりは、芹霞以外だけを追えばいいということで。


『了解した。少し待て』


「ニノ、スタートしたら、1秒ごと10秒カウントとってくれ」

『判りました、イヌ』


準備OK。


後は…念押しだ。


「いいか、玲リス。好きなものには触るなよ。とにかく芹霞が出て来ても、触るんじゃねえぞ? それ以外を攻撃しろ。欲を抑えろ。

煩悩滅殺!! 繰り返せ!!」


「馬鹿犬こそ僕の芹霞には触るなよ? 

煩・悩・滅・殺!!」


「そうだ、煩悩滅殺!!! さあもう一度!!」


「煩悩滅……」


何かが…こっちに転がってきた。


「「………」」


その丸いものはチビ共で雑然となっている舞台にも、コロコロ転がっているようで。


それは――…。


「「………」」


俺は頭の上のチビリスを指でつつく。


「……。おい」

「………」

「……おい。くたばっちまった?」

「………」

「おいって。煩悩滅殺。繰り返してみろ」

「………」

「煩悩滅…おっ!!?」



頭で…飛び跳ねている感触。



そして――…。


「胡桃(くるみ)ッッ!!!」


歓喜に満ちた声。


「求愛の胡桃があんなに、あんなにあるッッ!! 全部、拾わなきゃッッ!!!」


頭で飛び跳ねて喜んでいるのは――

欲に塗(まみ)れたリス。


今まで俺の舵を取ろうと頭に居座っていたチビリスは、意地も矜持も煩悩滅殺も全て放り投げ、頭上から地面に飛び降りて来ると、大きなふさふさの尻尾を派手に揺らして、胡桃に飛びつこうとする。


「おい待てコラ!!!」


小さな手が胡桃に伸びる寸前、その尻尾を捕まえ宙に浮かした。

ぱたぱた、ぱたぱたと…まるでクロールで泳いでいるかのように、リスは四肢を動かす。


「何するんだよ、馬鹿犬!!! 僕の胡桃が、僕の胡桃がッッ!!」


「言った傍から、何してるよ!!! 拾うな、芹霞以外は攻撃だ!!! いいか、欲望を殺せ!!! 煩悩滅殺!!!」


その時、視界に入るのは、


「ニャアアアアン…」


ネコ耳芹霞。

悩ましげに横になり、俺を誘うようにその手を丸める。