朱貴が溜息のような深い呼吸をしてから、僕に言った。
「紫堂玲、お前には色々な重圧がかかっている。芹霞を助けることで今は頭が一杯だろうが、まず第一に。お前という存在が狙われていることを自覚しろ。
周涅が紫堂に持ちかけた結婚話は、紫茉とお前との…交合を防ぐもので、紫茉の代理をお前に宛がおうとした。しかし雄黄が、本来予定していた話に戻したんだ。
そのことで周涅は、内心揺れているはずだ。それが…恐らく、紫堂と皇城の結束を打ち破る鍵になるだろう」
周涅もまた…妹を、僕に抱かせたくなかったと?
それでいて、煌と桜が立ち会ったという…あの怪しげな儀式をさせるのか?
不特定多数に抱かせても、僕には抱かせたくないと?
笑っちゃうくらい、矜持が傷ついた。
そこまで嫌われる僕という存在は何だ?
ただの私情だけだと言い切れない。
「僕の遺伝子は…なんだというんだ?」
「何だ、まだ結論に至ってないのか。こんな…単純なのに」
「え?」
意外過ぎる返答に、驚いた顔を朱貴に向けた僕。
「考えて見ろ。他の誰でもなく、お前が必要とされる理由。紫堂櫂でもない、お前が必要とされる理由…」
僕だけの特質…?
「電脳世界と…関係が?」
濃灰色の瞳は、鋭さを増して。
「そうだ。
電脳世界の制御、だ」
そう言ったんだ。
「え? 紫堂と皇城が…電脳世界を制御…したいのか? どうしてそんな…」
ありえない。
電気の恩恵を受ける人の身で、電脳世界を統べることなど。
「お前しか判らない電脳世界は、紫堂や皇城にとってみれば不可解すぎる世界。尚且つ、未知数であり…可能性が最も多い世界」
「可能性?」
「大いなる…力の対抗に」
僕は目を細めた。
「来るべき…その刻の為に」
僕のことを王子様と呼んで必要とした、"エディター"も、同じような言葉を吐いていたことを思い出す。
潜在意識に潜った時、彼女のその意識は殊更に強かった。
何が来るというのか。
それを代表して聞いたのは、紫茉ちゃんで。
「羅侯(ラゴウ)」
朱貴の口から、漏れた単語。
「羅侯(ラゴウ)の復活」
確かにそう聞こえた。

