シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




「なあ、そういえば朱貴。あたしがあの変な地下室に居た時、夢に…お前と芹霞のお姉さん、出て来たよな。あたし…芹霞に関して、凄く重要なことを言われていたと思うんだが…お前、思い出せるか?」


「……。俺が何でお前の夢に行かないといけない? お前は勝手に俺の夢を覗きに来るが、俺はお前の夢など見たくもない。自惚れるな」



朱貴が…紫茉ちゃんを突っぱねるのは、意味があってのことなんだろう。そうでなければ、彼は…あまりに不憫だ。


"関係"に拘らず、あくまで想いだけを貫く朱貴。

例えその肉体は穢れたとしても、想いは何処までも崇高で。


朱貴の影に櫂の姿を見る。


ああ…。

芹霞から返る心ばかり求める僕とは違う。

僕みたいに…すぐ揺れたりはしない。


「判ったよ、自力で思い出すから。んー」


頭を抱えた紫茉ちゃんは、深く考えているようだ。


「芹霞が関係していたような気もするんだけれど…」


ちらりと向けられる視線の先には、寝ている芹霞。

少し苦しげな声を上げたのを聞き、思わず立上がった僕に、


「大丈夫だ。暫くすれば自然に目覚める。少し寝かせてやれ」


朱貴は口元で笑いながら、僕を制する。


「話し声が煩いのかもしれないな。よし、あっちに移動しよう。カーテンを閉めておいてやろうか」

若草色のカーテンが、芹霞のベッドの周辺を囲んでいく。

僕との間を遮断された心地がして不安になったけれど、それでも朱貴の言葉を信じて、カーテンが視界に入る…ソファに皆で座った。


こうしてみれば、紫茉ちゃんは友達思いの普通の優しい少女で、朱貴が心を抑える要素など何もないように思える。


皇城の…例えば一人娘で、身分違いの愛だとか、そういうものでもなさそうだし、第一朱貴が、そこまで皇城に忠誠を誓っているようにも思えない。

朱貴が皇城の名を語るとき、その顔は冷ややかになるのが判るから。


ならば、朱貴が想いを堪える理由は、何だというのか。


その一途さが、僕には眩しいんだ。

騎士の如く、守りきれる強さも兼添えているのが…更に羨ましくて。


同じく好きな女性を守れる立ち位置にいたい僕は、何て狭量で余裕無く。

守ると口先では念仏のように唱えながら、実際は芹霞の変調も見抜けず、回復すら出来なくて狼狽ばかり繰り返し、挙げ句には情けなくも…突如現われた慈愛の色に縋っている始末。

もっともっと、1つ1つを真剣に取り組んで冷静でいたならば。集中力が散漫していなければ。違った結果もあったはずなのに。

僕は事前にすべき方法すら見つけることが出来ず、行き当たりばったり感が拭えない。


もしもあの場に朱貴が現われなかったら、僕はどうしていただろう。

芹霞はどうなっていただろう。

考えるだけでもぞっとする。