「なあ、そういえば朱貴。あたしがあの変な地下室に居た時、夢に…お前と芹霞のお姉さん、出て来たよな。あたし…芹霞に関して、凄く重要なことを言われていたと思うんだが…お前、思い出せるか?」
「……。俺が何でお前の夢に行かないといけない? お前は勝手に俺の夢を覗きに来るが、俺はお前の夢など見たくもない。自惚れるな」
朱貴が…紫茉ちゃんを突っぱねるのは、意味があってのことなんだろう。そうでなければ、彼は…あまりに不憫だ。
"関係"に拘らず、あくまで想いだけを貫く朱貴。
例えその肉体は穢れたとしても、想いは何処までも崇高で。
朱貴の影に櫂の姿を見る。
ああ…。
芹霞から返る心ばかり求める僕とは違う。
僕みたいに…すぐ揺れたりはしない。
「判ったよ、自力で思い出すから。んー」
頭を抱えた紫茉ちゃんは、深く考えているようだ。
「芹霞が関係していたような気もするんだけれど…」
ちらりと向けられる視線の先には、寝ている芹霞。
少し苦しげな声を上げたのを聞き、思わず立上がった僕に、
「大丈夫だ。暫くすれば自然に目覚める。少し寝かせてやれ」
朱貴は口元で笑いながら、僕を制する。
「話し声が煩いのかもしれないな。よし、あっちに移動しよう。カーテンを閉めておいてやろうか」
若草色のカーテンが、芹霞のベッドの周辺を囲んでいく。
僕との間を遮断された心地がして不安になったけれど、それでも朱貴の言葉を信じて、カーテンが視界に入る…ソファに皆で座った。
こうしてみれば、紫茉ちゃんは友達思いの普通の優しい少女で、朱貴が心を抑える要素など何もないように思える。
皇城の…例えば一人娘で、身分違いの愛だとか、そういうものでもなさそうだし、第一朱貴が、そこまで皇城に忠誠を誓っているようにも思えない。
朱貴が皇城の名を語るとき、その顔は冷ややかになるのが判るから。
ならば、朱貴が想いを堪える理由は、何だというのか。
その一途さが、僕には眩しいんだ。
騎士の如く、守りきれる強さも兼添えているのが…更に羨ましくて。
同じく好きな女性を守れる立ち位置にいたい僕は、何て狭量で余裕無く。
守ると口先では念仏のように唱えながら、実際は芹霞の変調も見抜けず、回復すら出来なくて狼狽ばかり繰り返し、挙げ句には情けなくも…突如現われた慈愛の色に縋っている始末。
もっともっと、1つ1つを真剣に取り組んで冷静でいたならば。集中力が散漫していなければ。違った結果もあったはずなのに。
僕は事前にすべき方法すら見つけることが出来ず、行き当たりばったり感が拭えない。
もしもあの場に朱貴が現われなかったら、僕はどうしていただろう。
芹霞はどうなっていただろう。
考えるだけでもぞっとする。

