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「裏世界、か…。

あいつが…行くべき処ではないのに…」


私が話終わった後、哀切込めた言葉を漏らし、玲様は僅かに目を伏せられた。


「あいつは――

煌と行ったのか…」


私は、心に共鳴を感じた。


玲様も…櫂様と共に行きたかったのだろう。

櫂様に、選ばれたかったのだろう。


櫂様を心酔しているのは玲様も同じ。


「僕だけ…こんな安穏とした場所に居て。

僕が…櫂を追い詰めた張本人のクセして。


僕には――

失うものがないとは…」



そう、芹霞さんを見つめられる。

芹霞さんは眩しい光に少し身動ぎされ、そしてまた寝息をたてた。



「だけど――

それでも芹霞を失いたくないと思う僕は…

彼女が危険な目に遭わず、僕の元に居るのが嬉しいだなんて…何愚かなことを考えてしまってるんだろうね…」


玲様は、翳った顔で…自嘲気に笑われた。


「玲様の元なら安心だと…そう判断された結果です」


そう。


だからこそ、久遠も櫂様も…芹霞さんを"約束の地(カナン)"の爆発に巻き込もうとはしなかった。

玲様と共に…逃がそうとしたんだ。

玲様に芹霞さんを託されたのだ。


「安心、か……。

こんな僕なのにね…」


苦渋に満ちた端麗な顔。


玲様は…壁に寄りかかるようにして、そのまま目を閉じられた。


鳶色の髪が光に照らされる。

幻想的に光が踊り、私は思わず目を細めた。


端麗なその姿は、光の元で輝いているのに…

その心は闇に彷徨(さまよ)っているように思えた。


やはり、櫂様でなければ…

玲様の憂いを解けないのだろうか。


私からの言葉では…無理なのだろうか。


「ん……」


その時芹霞さんが目覚められ、むくりと上半身を起こすと、眠そうに手で目を擦った。


「まだ…寝ていていいよ?」


芹霞さんに向けるその一瞬、玲様の顔は穏やかになる。

玲様の心の拠り所としているのが判る。


もし芹霞さんが玲様を選ばず、そして今も一緒に居なければ…玲様の心はどうなっていただろうか。


かろうじて"自分"を保たれているのは、芹霞さんの存在故だろう。

私の存在じゃない。