「ふふふ、こんにちは」
にっこりと笑う芹霞の格好は、青いワンピースに白いフリルのついたエプロン。
頭には大きな大きな赤いリボンをつけていて。
不思議の国のアリス…か。
「あんた、随分と泣き虫だね。あたしは神崎芹霞。あんたの名前は?」
どくん。
俺の記憶が刺激される。
――芹霞ちゃん、だあい好き!!
俺の顔を覗き込んでくる芹霞。
「あれ? お口きけないの? お名前は?」
「しどう…かい…」
「カイって言うんだね。よろしくね」
スカートの裾を手で広げて、ぺこんと頭を下げた。
「カイ、あたしがまもって上げるね」
愛しい記憶が、目の前で重なるだけで…涙が出そうになる。
あの頃の芹霞が此処にいて。
俺を忘れた芹霞と、今ここからやり直せたらと…馬鹿みたいに期待する俺が居る。
――芹霞ちゃあああん!!
原点だ。
俺の恋心の…始点だ。
眩しい笑顔がそこにあって。
俺だけを見つめてくれるその黒い瞳に…俺は縛られたんだ。
12年間、ずっと――…。
幸せな幸せな時間。
時に辛くて苦しかったけれど、
芹霞が居るだけで俺は――…。
「カイ、おいで? 一緒に居よう?」
芹霞が昔のように手を広げた。
温かくて綺麗で、永遠に…俺だけのものだと…そう思っていた。
俺だけを好きでいてくれると。
俺だけを見つめ続けてくれると。
幸福は…崩れることはないと。
そう信じていたあの頃。
「カイ、大好きだよ?」
庇護ではなく、男として。
――紫堂櫂を愛してる!!
俺を――
愛してくれると。
「カイは? あたしのこと好き?」
俺だけの…お姫様…。
好きで好きでたまらなくて、
愛しさばかり溢れ返る。
こんな昔の小さな姿であろうと、
俺に微笑みかける芹霞への愛しさが募るんだ。
どれだけ俺は、芹霞を渇望しているのだろう。
どれだけ、愛しているのだろう。
欲しくて仕方が無い、俺の姫。
好きだよ、お前が。
12年間、ずっと――…。
だけど――
――玲くんが好きです。
「くっそーッッ!!!」
俺は歯軋りをして、
その芹霞を突き飛ばした。

