白やぎさんからお手紙ついた

黒やぎさんたら読まずに食べた

しかたがないのでお手紙かいた

さっきの手紙のご用事なぁに



黒やぎさんからお手紙ついた

白やぎさんたら読まずに食べた

しかたがないのでお手紙かいた

さっきの手紙のご用事なぁに



これは…童謡「山羊の郵便」ではなかったか。

昔…芹霞と歌った記憶がある。


芹霞と大きな声で、手を繋いで公園で歌っていたら、


――櫂、お前オンチだな。


近所の、ガキ大将に笑われて。


――そんなんだったら、芹霞に嫌われるぞ?


それ以来、俺は芹霞の前で歌いたくはなかった。


桐夏の学園祭は…不測の事態。

例え自棄でも、やる気になれば歌えたらしい。

歌ってから、大丈夫そうでほっとした記憶が蘇る。


♪白やぎさんからお手紙ついた


気づけば俺は、リズムに合わせて首を動かしていて。


カチャリ。


音楽が止むと同時に、郵便受けのような…扉の覗き窓のような箇所から、何かが出て来た。


1枚の紙。


「………。今の、ふさふさと肉球見えたよな」


郵便受けを開けてみようと思ったが、こちらからは開かないようだ。

とりあえず紙を広げて見たら。


『31問中、8問不正解。

お前、馬鹿か?

何が完璧主義だ。

ニャアニャア』


そして最後には、猫らしき手形。


………。

絶対、此処には悪感情が籠もっている。


「……何が"ニャアニャア"だ、久遠、出てこいッッ!!!」



がちゃ。


鍵が開く音がして、扉が開かれた。


拡がっていたのは…生け垣の迷宮。

中世の欧州の城にありそうな、手入れが行き届いた緑の庭園で迷宮が作られているのか。


確かに…行き止まりや分岐があり、迷路にはなっているようで、薔薇の蔦が…壁となる垂直に刈られた草に巻き付いている。


「扉の奥に久遠がいたのに…

どうして扉を開けたら居ないんだ?」


………。

ああ、此処も常識は通用しないのか。

怒りが不発で消化不良だけれど、まあ時間が勿体ないのは確かで。


「ニノ、30秒で此処を抜けたい。10秒ごとに知らせてくれ」

『畏まりました』


そして足早に進んで行くと、アナウンスがかかる。


『罰則(ベナルティー)レベルB。

"幸福"を禁ず。

幸福へ80攻撃せよ』



朱貴の声。


幸福…?

80?


そして出て来たのは…

黒目がちの大きな目。

肩で揃えられた黒髪。


爽やかに、そしてあどけなく笑う、


俺の――…

小さい小さい芹霞。

俺が出会った頃の、俺がまだ変貌する前の。