シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




「お父さーーーーーーーん」

「お母さーーーーーーーん」


動いている。

やはり、昔の煌の唇が動いている。


「どうだ、煌…」

「なんだか…日本語じゃねえぞ」


そう言いながら、煌は片手で顔を隠して、苦しそうに息をしている。繰り広げられている光景は…心にキツいから。


「それよか…櫂。今、芹霞のお袋が…"うじがみさま"って言ってた…」

「うじがみ…?」


氏神?


氏神というのはその土地の神のこと。

芹霞の父親は婿入りしたはずだから、確かに…神崎家の歴史は土地に根付いてはいるはずだけれど。

信仰していた神が居たのか?


グサッ。


今、殺られたのは…芹霞。

私情を必死に押し殺し、俺は強く強く唇を噛みしめ、己を奮い立たせた。


崩れる小さい身体の奥に、昔の煌がいる。

やはり…昔の煌が何か言っている。


「長い単語だ。最後は"ワーム"…」


だけどそれだけしか判らなかった。

該当する単語が、俺には思い浮かばなかったから。


"ワマス、ウォルミウス、ヴェルミ、ワーム"…と動いている気がするけれど、意味が判らない。

訳せられない。


俺達は刺激の強すぎる台所から出た。


ワームとは、蟲のことか?


昔の煌は…何を言っていたんだ?



その時、


『お知らせ致します。あと1分を切りました』


ニノの声。


このままだと…此処から出られなくなる。

翠は…どうなっているだろう。



「……煌。此処は俺がなんとかする。

お前は…翠の元に行け」


俺は、そう言った。



「は!!? 嫌だよ、俺だって…」


「このままでは…埓があかない。時間が足りなすぎる。翠を見てやってくれ」


「お前何言ってるよ!!! だったらお前行けよ。此処は俺が…」


「いや…これは俺の記憶。俺が守っているものを、俺が見つけ出さないでどうする」


「じゃあ2人で頑張ろうぜ? いいか、櫂!!! お前…今までこんな辛いことを1人で抱え込んできたんだろうが。今更俺が言っても説得力ねえけどよ、俺だって…お前の力になりてえんだよ!!」


煌の目は真剣だった。


「この悪夢を、克服しないといけないのは…お前だけじゃねえんだよ!!!」


巡り巡る…悪夢。

何1つ変わりなく。


こんなに刻銘に覚えているのに…

まだ見せつけられて。


これで平気かと言われれば、

平気だと答えるのは完全虚勢だ。


忘れられるものではない。

これは俺が…忘れてはいけないもので。


何よりも…覚えておかないといけない大事なことで。


俺の原点だから――


「大事な…もの…」


大事な…。


それはまるで――

稲妻が落ちたようなショックだった。