放蕩三昧だったはずの玲の父親が、研究?
紫堂を名乗らない理由は、弟である当主に禁じられていたのか、もしくは――私情故か。
そして名乗ったのは、俺の母親の旧姓。
これならば…メディアを通じて、特別な関係柄だと公言しているようなものじゃないか。
不思議にショックは沸かない。
俺にとって母親は、芹霞であり芹霞の母親で。
むしろ、神崎親子を失った…この光景の方が絶望的すぎた。
親不孝な…息子だと思う。
"約束の地(カナン)"で氷皇からのビデオに映った若い母親の顔を見た時。
安らいで幸せそうな顔を見た時。
一段と俺の心は冷えたと思う。
俺にも父親にも、そんな顔を見せたことはなかったから。
"榎波壱弥"
俺の母親と玲の父親が不倫をしていようが何をしていようが勝手だけど、堂々とおかしな名前を名乗る愚かさによって、無駄に玲の心を抉らないで欲しい。
玲にまで自分勝手な大人達のとばっちりを与えたくない。
「氷皇のビデオに出てた"あいつ"のなれの果てか。玲の父親は壱弥っていうのか。壱と玲か…1と0? シャレかよ。……うーん、あと他にめぼしい記事は…ねえよな。」
「現実世界に戻った時、この新聞の検証をした方がいいな。現実に存在するものなのかどうか」
俺達を惑わす為の、ただの虚構な…絵空事なのか。
「ああ…また、光景が繰り返される」
つまり、今見つけたものは、"守っているもの"にはあたらない。
動物アニメじゃなかったことも。
巧海さんの黒き薔薇の刻印も。
殺人事件の記事も。
榎波壱弥の存在も。
他に――
見落としがあるのか?
守っているもの…。
それは、何なんだ?
目の前に…昔の煌が居て。
にやりと笑って、
巧海さんの首に――
「煌!!! 今、お前何を言った?」
「あ? 俺何も言って…うっ…」
「お前じゃなくて、そっちの…」
迸る鮮血。
転がる頭。
慣れるわけはない。
「あ?」
俺には…昔の煌の唇が何か動いたような気がしたんだ。
俺の記憶では、にやりと笑っただけのはずだったのに。
「煌、台所に行こう。
また何か言うかもしれない」
俺の脳裏には、殺す度に…にやりとした昔の煌の顔が焼き付いていた。
もしかすると…笑う都度、何かを言っているのかも知れない。

