「どういうことだ? これは…裏世界に入る為に必要だと…情報屋につけられたものだぞ?」
俺は知らない。
芹霞の父親が、こんな刻印を持っていたなんて。
だけど、"絶対なかった"とまでは断言出来ない…何かの"つかえ"のようなものが俺の中に生じているのも事実だった。
風呂に入れて貰ったこともあったのに、その部分の記憶は不明瞭で…その正が言い切れない。記憶の中途半端さがもどかしくて溜まらない。
「裏世界の…人間だったのか、芹霞の親父」
「いや…普通のサラリーマンだったはずだ。芹霞の父親――巧海(たくみ)さんは、毎日鞄もって…会社へ行っていた…記憶がある」
――お父さん行ってらっしゃい!!!
――巧海お父さん、行ってらっしゃい!!
俺は昔を思い出しながら、前髪を掻上げた。
「あるが…どの会社だったとか、実際の働いている姿は…俺も芹霞も見たことがない」
――お父さんはね、お薬をお医者さんに売っているお仕事なの。
父の日に"働く父親"を絵にしたいと、母親――倭水(かずみ)さんに言った芹霞に、倭水さんはそう語ったことがあるのを思い出した。
「確認したことはないが、製薬会社か何かの営業マン…の線が濃厚で、その姿はごく一般の家庭にあるような、優しく明るい父親のものだったし、"裏"とは無縁の気がする」
――芹霞、櫂、倭水!!! ボーナスが出たから、今日はお寿司だ!!! 回らないお寿司やさんで、好きなものをお腹いっぱい食べて良いぞ!!!
――やったああああ!!! 櫂、今日は大トロばかり食べよう!!!
――うんうん、芹霞ちゃん。大トロばかり、沢山食べよう!!
――じゃあ私はうにばかり食べるわ~。緋狭も呼ぼうかしら。
――ははは、ははははは…。お父さんはカッパ巻きばかり食べるよ。
「だったら単純に入れ墨(タトュー)なのか、これ?」
「……。俺から言わせて貰えば、巧海さんの好む服装は"おじさん臭い"と、倭水さんはよくぼやいていたし、おしゃれに入れ墨など…どうしても考えられない。仮に裏世界とまではいかなくとも、入れ墨を…裏稼業の象徴として誇示したかったのであれば、こんな黒い薔薇などの模様にしなくてもよかったはずだ。もっと勇ましい模様はある」
「じゃあ何で櫂と同じ柄? 偶然なのか? けど…偶然と言い切るには、出来すぎていねえか? こんな場所、見ようとしなければ判んねえし、んな部分に何でどうでもいい入れ墨、入れるってよ? 罠か…?」
確かに…煌の言う通りだ。

