シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


俺の悪夢――。

今まで俺の中の絶対的禁忌で、深く触れないようにしてきた部分だ。


何をどうやって…俺の記憶を反映させているかは判らないけれど、俺の記憶に準じたものがこのゲームの舞台だというのなら、この悪夢に…見落としがあるということだ。


皮肉だ。

出来れば、永遠に封じたい記憶を、今…これを突破する攻略の為に、細かくほじくり返して、じっくりと観察しないといけないなんて。

此程自虐的なものはないだろう。


煌だってそうだ。


緋狭さんの力がまだ効力を持ち、この悪夢に触発されて記憶を蘇生…してはいないが、それを現実と受入れるのは即座には出来ない。

それでも必死に耐えるその顔は、痛ましくて仕方が無いけれど。

それが…俺達の進むべき道の中途にあるというのならば、逃げてはいけないんだ。


俺は、この現場を煌に見せまいとしたけれど、煌は強くなるために必要だと言った。


煌は煌なりにもがいている。

俺は…支えになってやりたい。


悪夢はターンがある。


テレビがついて、新聞が現われて。

神崎父が現われて、神崎母と芹霞が現われる。


そして煌が現われ、緋狭さんが現われて慟哭して。

それが1ターン――。


しかし、俺の記憶は…その前もその後もあるはずで。

それがどうしてそこまで再生しないのか、或いは出来ないのか…判らない。


俺視点の悪夢には間違いないだろう。

緋狭さんの言葉にも記憶がある。


この悪夢の正否を言えるほど、この光景は鮮明に俺の記憶に刻み込まれている。


その俺が、無意識に"守っている"ものとは何だ?

8年間もずっと――。


目の前では…小さい煌が父親の首を刎ねた。

そして…台所に行くのが見える。


「く……っ」


こんなに繰り返し、見せられなくても…十分に判っている。


あまりに非力で無力で。

最後まで…芹霞に心配させて…守られて。


その俺が、何を守っていたと?


「なあ…櫂」


煌が…台所に背を向けるようにして、ソファの近くに立って居た。

傍には…頭なく、血だけを吹き出している神崎父の骸がある。


煌が…口に手を抑えながら、手を振って俺を呼んだ。


「こいつの左鎖骨のあたり…見てみてくれ」


それは…赤く染まった、切り口からかろうじて判る。



「これは!!!」


俺は…血染めのその服を更に剥いだ。

服地で、その周辺の血を拭き取る。


唯一拭き取られることなく、明瞭に出て来たのは…


「黒い薔薇の刻印…

俺と同じ――…」


俺は…首を手で押さえた。