俺の悪夢――。
今まで俺の中の絶対的禁忌で、深く触れないようにしてきた部分だ。
何をどうやって…俺の記憶を反映させているかは判らないけれど、俺の記憶に準じたものがこのゲームの舞台だというのなら、この悪夢に…見落としがあるということだ。
皮肉だ。
出来れば、永遠に封じたい記憶を、今…これを突破する攻略の為に、細かくほじくり返して、じっくりと観察しないといけないなんて。
此程自虐的なものはないだろう。
煌だってそうだ。
緋狭さんの力がまだ効力を持ち、この悪夢に触発されて記憶を蘇生…してはいないが、それを現実と受入れるのは即座には出来ない。
それでも必死に耐えるその顔は、痛ましくて仕方が無いけれど。
それが…俺達の進むべき道の中途にあるというのならば、逃げてはいけないんだ。
俺は、この現場を煌に見せまいとしたけれど、煌は強くなるために必要だと言った。
煌は煌なりにもがいている。
俺は…支えになってやりたい。
悪夢はターンがある。
テレビがついて、新聞が現われて。
神崎父が現われて、神崎母と芹霞が現われる。
そして煌が現われ、緋狭さんが現われて慟哭して。
それが1ターン――。
しかし、俺の記憶は…その前もその後もあるはずで。
それがどうしてそこまで再生しないのか、或いは出来ないのか…判らない。
俺視点の悪夢には間違いないだろう。
緋狭さんの言葉にも記憶がある。
この悪夢の正否を言えるほど、この光景は鮮明に俺の記憶に刻み込まれている。
その俺が、無意識に"守っている"ものとは何だ?
8年間もずっと――。
目の前では…小さい煌が父親の首を刎ねた。
そして…台所に行くのが見える。
「く……っ」
こんなに繰り返し、見せられなくても…十分に判っている。
あまりに非力で無力で。
最後まで…芹霞に心配させて…守られて。
その俺が、何を守っていたと?
「なあ…櫂」
煌が…台所に背を向けるようにして、ソファの近くに立って居た。
傍には…頭なく、血だけを吹き出している神崎父の骸がある。
煌が…口に手を抑えながら、手を振って俺を呼んだ。
「こいつの左鎖骨のあたり…見てみてくれ」
それは…赤く染まった、切り口からかろうじて判る。
「これは!!!」
俺は…血染めのその服を更に剥いだ。
服地で、その周辺の血を拭き取る。
唯一拭き取られることなく、明瞭に出て来たのは…
「黒い薔薇の刻印…
俺と同じ――…」
俺は…首を手で押さえた。

