俺が…知らなきゃ。
知らずに終えたくはない。
強くなると…皆を守ると…
そう誓ったからには。
俺は…逃げてはいけねえんだ。
強く…ならなきゃなんねえんだ。
「お父さーーん、お母さーーんッッ」
次は、次はきっと――
「止めないとッッ!!!」
反射的に駆け出しそうな櫂の腕を掴んで――
俺はがくがくする身体を必死に抑えた。
視界の中、チビの俺が真っ赤な目で笑う。
そして、泣き叫ぶ芹霞の真っ正面に立ち、その手を――
ズサッ…。
『芹霞ちゃああああああん!!!』
耳に聞こえたのは…多分、8年前の櫂の声。
何も出来ずに、傍でただ見ているだけだった…櫂の声。
『嫌だあああああああ!!』
芹霞の…小さな背中を突き破って出た手には…。
その手には――。
「ぐっ…うっ…」
涙が止らねえ。
『死んじゃ嫌だああああああ!!!』
その手には…
まだ動いている…真紅の心臓。
そしてそれは――
『芹霞ちゃああああん!!!』
手で潰された。
「馬鹿野郎ーーーッッッ!!!!」
俺は怒鳴りつけた。
芹霞の…
芹霞の心臓を…
握り潰した俺に。
そして笑う…昔の俺に。
「あっ…・ぐっ…」
櫂が…慟哭を必死に耐えている。
「……っ、あがっ…」
櫂が二つ折りになって、吐き出した。
ぶるぶると震えて、床の…絨毯を掻き毟るその爪には、血の気なんて全くねえ。
崩れていく芹霞。
胸に穴の開いた…骸。
2ヶ月前の出来事が再生されて重なる。
それは櫂も同じだろう。
「芹霞、芹霞……!!」
櫂が、頭を抱えて泣き叫び…
「ああああああああ!!!」
座り込んでしまった。