どくん、どくん。
心臓がけたたましく鳴り響き、耳鳴りまでしてきそう。
櫂が何かを叫んでいるが、俺の耳には入って来やしねえ。
よからぬ不安に、吐き気がする。
チビの制裁者(アリス)が手を動かした時――
ごろり。
ソファに座って新聞を読んでいた、若い男の首が…床に落ちた。
瞬時に変わる、視界の色は。
何処までも赤。
何処までも真紅。
生臭い血の色が部屋に充満する。
おい…。
今…
チビの俺…何したよ…。
「煌、見るな。
見るんじゃない!!!」
思わず、よろりと崩れかけた俺の上体。
櫂は俺の頭を抱きしめるようにして、光景を見せないようにするけれど。
「見なきゃ…」
俺の目から、自然と涙が零れた。
「駄目だ…煌、この先は…見るな、耳も塞げ!!」
櫂は…泣いていた。
もう確信した。
此処で起っているのは…
櫂が目の当たりにした――
8年前の最悪の現場。
犯人である俺が知らずして、
のうのうと生きていくことは出来ない。
逃げることは許されねえ。
俺は…そう思う。
俺が…俺として生きる為には。
皆の元で、芹霞の元で生きたいと願う限りは。
「俺の――ケジメだ。
見させて…くれ」
「駄目だ。それだけは駄目だ!!
頼むから煌…
此処は引き下がってくれ!!」
「お母さーーーーーんッッ!!」
床に…鈍い落下音。
視界の横が…真紅に染まる。
「お父さーーーーーんッッ!!!」
チビ芹霞の泣きじゃくる声。
俺は――
櫂の身体を突き飛ばした。