鼓膜を突き破り、それは更に内部へと侵入する。

何か私は喚いたけれど、それは言葉にならず。


ただ思った。


紫堂本家にて襲いかかってきた警護団。

ドーピングのように、明らかに何かを"細工"させられていた名残があった。


彼らの耳には――

針が突き刺さっていなかったか。


そう、まるでこの長さの。


だったらあれは副団長が?


ぼやける意識の中で、副団長の首に巻きついた腕の一部が脳に映像を刻む。


ああ…これはきっと、薄れる意識が見せた幻覚だろう。


副団長の腕に…

黒い薔薇の刻印があるのは。


櫂様と…情報屋と、記憶に新しい蛆男の持つその刻印が、紫堂の副団長の腕にあるはずはない。


ああそう言えば、あの蛆男も…長針を使っていたような。



「団長、今まで、お疲れ様でした。

もう――お時間です」



頭の中で――

何かが飛び散る音がした。


私は声を上げた。


それに子供の笑い声が絡み合う。


そして――


「我を称えよ」


そう…子供の口から漏れた気がした。


崩れたくない。

私は崩れてはいけない。


そう思えど、意識だけが急速に遠のいていく。


ああ、あの子供…。

残虐めいた色を浮かべるあの子供。


年齢そぐわず、侮蔑の眼差しで高みの見物をしているあの子供は。


まるで高慢な"エディター"の顔。


だからだろうか、子供の胸元に留められている違和感ある小さなバッチが、最後の…私の意識を振り絞らせたのは。



「九曜紋……」



それは直感。


「ああ…もしかして…」



思い出したその顔は。


"ディレクター"たる黄幡計都に抱かれていた子供ではないか。



黄幡会の――


「きゃははは。ばいばい、おに~たん」


"マスター"…?



そこで私の意識はぷつりと途切れた。



直前、最後に思ったのは――


"早く芹霞さんに、接着剤を届けないと"


ということだった。