力尽くで抑えこまれた時は、怖くてぞくりとして悲鳴を上げて抵抗した。


だけど――

どんなお子ちゃまのあたしでも、あんな"男"の顔をした玲くんの欲が何か判ったから、それに応じるべきか…とか、こんなお子ちゃまでも"女"として求められているのが嬉しい…とか、妙に冷静な思考が頭の中を掻き回して。


壮絶な艶を放つ玲くん。

鳶色の髪を振り乱して、"男"の顔であたしに迸(ほとばし)りをぶつけてきた玲くん。

我に返ったように苦悶して動きを止めていた玲くん。


それも玲くんなんだと思えば、玲くんもこんなあたしに"男"として乱れることがあるのだと思えば、少しずつ玲くんを知れる喜びと興奮に、あたしはただされるがままの状態で微笑んでいたと思う。


そして思った。

傷ついている玲くんを、あたしで癒してあげられたのなら。


我慢ばかり強いられている玲くんに、我慢させたくない…。

ねえ…あたしが応じたら、玲くんはそんな苦しい顔をしないですむのかな。


ふと、頭に過ぎったのは、"約束の地(カナン)"で凜ちゃんに縋った玲くんの姿。

凜ちゃんは玲くんを聖母のように包み込み、あたしはそんな存在になれない無力な自分が悔しかった。


だから。今度こそはあたしが玲くんを包んであげたいと、思わず手を玲くんの背中に回そうとした時。



――僕を叩き殺せッッ!!


玲くんをそこまで深刻にさせている現実を悟った。


急激にまどろむような意識が冴え渡り、あたしは冗談にならない切迫した状況にあったことを今更のように感じ取って、どうしていいか判らず今度は頭がパニックになってきて。


ただこれだけは判った。

優しい玲くんの変貌は、絶対彼の意思じゃない。

何かと戦い、ぎりぎりのトコロで抑えこんでいる玲くんは、折角クオンが助けたというのに、このままだと…あたしのせいでまた命を落そうとしてしまう。

あたしを傷つけないようにする為、自らを犠牲にしてしまう。

それだけは絶対嫌だった。

玲くんが落ち着くのなら、こんな貧相な体なんてくれてやる!!

そうは思ったけれど、そんなことをして正気に戻ったとしても、玲くんは悔いて絶対あたしの元に帰ってきてくれない気がする。


ならば取るべき術は1つ。

あたしの持てる全ての力で、玲くんを止めること。