眩暈がするほど…芹霞さんが眩しくて。
眩しすぎて…。
そして…私を見るその黒い瞳が綺麗すぎて。
縛られる。
囚われる。
…欲しくなる。
ふらりと…体が吸い寄せられるように動きそうになった時、
"裏切りたくない"
不意に玲様の声が心に流れた。
そして視線。
冷たい…心に突き刺さるような瑠璃色の瞳。
芹霞さんの首に居るクオンが、私を見ていた。
まるで――
私の中の燻る想いを見透かしたかのように。
……詰るように。
「???? どうしたの、桜ちゃん」
私は…唇を噛んで、現実を思い返した。
芹霞さんは…私が容易に触れていい女性ではない。
そう戒めれば戒める程、胸が軋んだ音をたてるけれど。
「何でも…ありません。
こちらこそ、よろしくお願いします」
そう私が頭を下げてからクオンを見た時、クオンは目を瞑って眠っていた。
何もなかったように。
「ん……」
その時、ベッドで眠る玲様の苦しげな声が聞こえて、慌ててベッドを見た。
苦悶の表情をした玲様が身動(みじろ)ぎしている。
腫れた頬が痛むのだろうか。
何処か口の中を切られてしまったのか、それとも…手が痛むのか。
別の処を怪我されているのだろうか。
よく観察しようとしたら、芹霞さんに止められた。
「さ、ささ桜ちゃん。玲くんのほっぺは…あたしやるから。あたし叩いてこんなになっちゃったから、あたし…ちゃんと見るから」
さっきから…何でそんなに焦っているのだろう。
良心の呵責?
「ゆ、百合絵さんが運んだ、し、紫茉ちゃんの方、見てくれる? あたし、玲くんの看病したいの。むしろ、させて欲しい!!!」
必死の懇願だった。
芹霞さんは、玲様の恋人なんだ。
私が反対する理由もない。
それは…当然のことで。
私が…憂う心になるのは筋違い。
「では…よろしくお願いします」
私が頷いて出て行こうとすると、
「桜ちゃん!!! あのね…1つお願いしていい?」
「はい?」
私は足を止めて振り返る。
「あのね…
瞬間接着剤、欲しいの」
瞬間…接着剤?
「あ、はい、判りました。近くにコンビニありますから買ってきます。が…それで一体何を?」
不思議に思って尋ねる私に、芹霞さんはぎこちなく笑った。
「し、修繕を…。ちょっと…壊しちゃったもの、あるから…早いうちに…あははははは」
何だろう。
まあいい。
このマンションには百合絵さんがいるから、誰かが襲ってきても…一時くらいは凌いで貰える。
それにクオンもいることだ。
私は百合絵さんにその旨を伝え、コンビニに走った。
◇◇◇
《Upper World 003》

