そして朱貴が叫んだんだ。
――葉山!!! お前達で離れの当主の部屋に…紫堂玲を救いに行け!!! 紫堂玲が危険だ!! クオン!!!
クオンが名前だと…何故知っているのだろうか。
芹霞さん以外には懐かないクオンが、ひらりと朱貴の肩に飛び乗り、また長く鳴いた。
何処かで…パリーンと、硝子が壊れるような音がした。
この音は聞き覚えがある。
何処でだ?
これは…ああ、初めて黄幡会に行った時。
幻覚で悩まされていた私達に、皇城翠の式神が…幻覚を壊した時の音だ。
え?
だとしたら…あれと同じような幻覚が、紫堂で起きているというのか!!?
――お前達で離れに乗り込め!! クオン、お前が要だ。行け!!!
ニャアと鳴いたクオンは、朱貴の肩から私達の前にひらりと降り立ち…こちらを向いてニャアと再び鳴いた。
まるで、ついてこいと言っているように。
――そこのメイドは、外から紫茉を連れて合流しろ!!
そして、今まで私が立ち入ることがなかった、紫堂当主の離れにて。
驚いたのは私がそこに足を踏み込められたということよりも、先客の会話。
――僕は…彼女達を妊娠させたりは!!!
そこで、いきなり耳にした単語は衝撃的で。
そして誰より衝撃を受けていたのは、恐らく玲様自身。
玲様の繊細な心を揺るがすには十分なもので。
当主が語るものは…まるで他人事のように、私には現実味がないもののように希薄に思えた。
到底、信じられるものではなかった。
これは本当の話だろうか。
私の中の猜疑心が高まった。
玲様はこの雰囲気に飲まれ、そうだと信じきっている。
本当に…真実なんだろうか。
知らぬ間に子供がいた。
知らぬ間に、子供も元恋人も利用されて死んでいた。
その動揺につけこんで、玲様に七瀬紫茉を抱かせたいのか、そこまでして。
もし当主の言葉が真実ならぱ――。
私と遠坂由香は、芹霞さんの顔を見つめた。
芹霞さんは泣きそうな顔で、俯いていた。

