私と目が合うと…玲様は叫んだ。
強く弱く…必死に焦点を私に合わせようとして。
「桜…このままでは駄目だ。このままでは、芹霞を手折ってしまう。散らせてしまう。
ならば、僕の理性が残っている内に。僕が僕である内に」
慟哭している。
消えそうな理性の中で、切に訴える。
「芹霞を傷つける前に、僕を殺してくれッッ!!!」
咆吼。
玲様の…獣のような咆吼。
そんな玲様の叫びに呼応したのが芹霞さんだった。
「玲くんを殺させないッッ!!!」
そして――始まったんだ。
「玲くん、玲くん…しっかりして、玲くんッッ!!!」
バシバシ、バシバシッッ!!!
容赦ない…芹霞さんの攻撃が。
「玲くん、しっかりして!!」
バシバシ、バシバシッッ!!!
ある意味…ショック療法。
確かに玲様の衝動は治まったようだけれど…。
「玲くん、玲くん!!!」
玲様の頬が…。
バシバシ、バシバシッッ!!!
「か、神崎…やりすぎだって。おい神崎」
脳裏に浮かぶのは…煌。
S.S.Aでの芹霞さんの"バシバシ"は本当に凄かった。
玲様の体は、煌の様な非常識な頑丈さはない。
「せ、芹霞さん…もう…」
「神崎、もう師匠は大丈夫だから、な、神崎」
バシバシ、バシバシッッ!!!
「由香ちゃん、今度は玲くんが動かないの。こんなに叩いても反応してくれないッッ!!! もっともっと叩いて、痛みで起こさないと駄目かもしれないッッ!!」
バシバシ、バシバシッッ!!!
「わわわ。神崎、叩きすぎだって!!! どうして君は加減を知らないんだッッ!! 師匠の白い美頬が、赤いモチのようにぷっくりにッッ!!! 神崎の手だって、真っ赤なグローブじゃないかッッ!! 終わりだ!! 師匠…意識失っちゃったよ…。どんだけ凄いんだ、神崎の"バシバシ"。よし葉山、皆で逃げるぞ。あそこに百合絵さんが七瀬担いで待機している。七瀬捕獲はうまくいったみたいだぞ!!」
「あれ…何か玲くんの口から落ちた。…なんだろ、この固くて白いの。……。まさか……歯が……欠けた…とか?
………。………。
やばっ、やばやばっ!!!
白い王子様が歯っ欠け!!!?
ど、どうしようこれ…これ…瞬間接着剤でつくのかな。
………。………くっつけるしかないな。
よし。由香ちゃんにも誰にも見られてないな。…よかった。
後で…くっつきますように」
由香さんと話していてよく聞こえなかったけれど、芹霞さんはぶつぶつ何を言っているのだろう?
芹霞さんの攻撃が止んだ隙に、私は玲様を抱えて走る。
「ひゃっ…何、クオン逃げて来れたの?」
「ニャア」
芹霞さんの首に巻き付いたクオンと共に。