8年前。
僕が肩書きを剥奪され、皆に手の平を返された時に、唯一…下々の者に毅然と意見をして、僕を守ろうとしてくれた人だった。
元々あまり人から理解され難い…独特な雰囲気をもつ人だけれど、僕のことがきっかけで完全に孤立してしまい…自主退職させられる寸前で。
そこを櫂が、僕が紫堂にまだ居る時は引き続き僕専任のメイドとして…、マンションに引っ越してからは、紫堂における櫂自身の部屋の掃除係に任命し、彼女が1人でも居やすい環境を作ったんだ。
彼女が櫂の掃除係だから――
さっき、どうしても仕掛けられている"盗聴"に我慢できなくなった僕が、櫂の部屋に芹霞達を連れた理由の1つでもある。
百合絵さんが変わらずに、一生懸命仕事をしていてくれたのなら、仮に執事長などが勝手に櫂の部屋に忍び入って、盗聴器を仕掛ける大胆なことをしでかしていようと、彼女は必ずそれを見つけ出して処分し、櫂の部屋におかしげなものなど一切消してくれているはずだから。
数日前、百合絵さんは…僕が紫堂に戻った時、本当に嬉しそうにしてくれた。
――玲ぼっちゃま…またお会いできるとは…ずごっ。
彼女の嗚咽は少々風変わりで、獣染みて聞こえるけれど…紫堂に住まう誰よりも人間らしい。
彼女は僕はもう紫堂に戻らないと思っていたらしい。
僕も…生涯そのつもりだった。
――玲ぼっちゃまのお役に立てるのなら、何でも言い付け下さい。
そして彼女は密かに、僕のお願いごとを色々と調べてくれていたんだ。
未だ孤立している分、彼女は皆から無視されているけれど、だからこそ…皆が警戒しないで話す生々しい噂話が彼女の耳に届く。
それだけじゃない。
その他…実は百合絵さん、多才で…かなり身軽なんだ。
桜がまだ活躍していない時、警護団員として活動していた時期があり、当時の風の噂では、諜報活動にも凄く貢献していた人物だったらしい。
紫堂の警護団は、警護できる力を持つことは前提条件で、その中でも縦横無尽に暗躍する諜報活動を担当するには、桜のように…機転が利き、小回りがきいて、更に何でも器用にこなすことができなければまず無理だ。
百合絵さんは謎だ。
まず外見からは、警護団はおろか…メイド向きとも思えない。
桜はいまだそのことを知らず、櫂ですらそのことを話したら、絶句していた。

