「判りました。それは大変です。大至急、副団長を呼んできます」
百合絵さんはちょん、と…申し訳程度に頭を下げて(多分、精一杯の動きなんだろうけれど)、どすどすと帰っていった。
どすどす…。
彼女なりの大至急…なのかな?
どすどす…。
………。
あたし…ダイエットしなくちゃ。
人の振り見て我が振り直せ。
そんなことを思っている間、桜ちゃんは…白猫が目茶苦茶にさせて床に零した…スクランブルエッグの残骸を人差し指で少し掬い取り、少しだけ…舌で舐めていた。
蛆が湧いた付近だし、口にしたら汚いとおいしくないよと言いたかったけれど、少し遅かったようだ。
「………。毒、ですね。
即効性の…ヒ素系か」
普通に…世間話をしているかの口調で、桜ちゃんが言った。
そうか、ウジ味じゃなくてドク味だったのか。
よかったよかった。
………。
「毒!!!? 桜ちゃん大丈夫!!? 舐めちゃったじゃない!!!」
蛆がどうのの問題ではない。
ヒ素なんて劇物だ。
それくらいあたしだって判る!!!
「吐く!!? 水飲む!!!?」
おたおたするあたしとは対照的に、くすりと笑ったようにも思える余裕顔の桜ちゃんが答えた。
「芹霞さん、私は大丈夫です。役目柄…昔からあらゆる毒に耐性をつけていますから。この程度では私の体には作用しません」
は、はあ…。
確かに桜ちゃんに…変化の様子は見られないけれど。
桜ちゃん、小さい体なのに…頑丈なんだね…。
見るからに頑丈そうなワンコも、毒に強いのかな。
だけど奴は昔腐った牛乳飲んで、トイレから出れなかった時あったし……まあ、あまり常識が通用しない、特殊な体したワンコだけど…。
あたしだったら――
「!!!! ということは…猫ちゃんが来てくれなかったら、仮にあの蛆男と戦闘にならなくても、事後でも!!! 蛆男が運んだ料理を口にしていたら…」
「ええ。間違いなく…"イチコロ"です」
ざわ。
ざわわ…。
寒い…首筋が…。
と思ったら――
「何!!!? 重っ…」
白猫が、襟巻きのようにあたしの首筋に巻き付いてきた。
「今度は何だ!!? あたしは置物ではない!! そんなポンポンポン簡単に人の上に乗ってくるな!! あたしはか弱い女の子じゃッッ!!!」
だけど――
このふさふさのぬくぬく猫のおかげで…ぽかぽかになってきた。
この気まぐれ性悪猫のおかげで、何だかぽかぽか。

