シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


そして女…ではない、怪しい女装男の手が動こうとした途端、それより先に桜ちゃんが動いて…掌で男の顎を上に押し上げ、鳩尾に膝を入れた。


何が起きているの!!?


やんちゃ猫の大冒険が、意外な展開となっていき…あたしは由香ちゃんとただ息を飲むしかできなくて。


とりあえず、桜ちゃんは完全に戦闘態勢に入っている。


この男が現われた時、強張った顔をして動かなかったのは…桜ちゃんなりに何か違和感を感じて、警戒心が動いていたのかもしれない。

桜ちゃんが糸で男を縛り上げようとしたその瞬間に、床に倒れた男がスカートの下から何かを取出して。


「!!!?」


あたしに投げつけたんだ。


あたしに…。

あたしに何故!!!?


それは男の苦し紛れだったのかよく判らない。


だけどあたしには…殺人予告がなされる"CARCOSA(カルコサ)"において、あたしの占星術(ホロスコープ)が掲載されたという事実が頭に浮かんでいて、あたしに殺意が向けられるのは恣意的ではないように思えたんだ。


今まで玲くんといて、平穏だったわけではないけれど、明らかにあたしを限定して狙われたことはなかったような気がするのは、玲くんが守り続けてくれたおかげかもしれない。


桜ちゃんが慌てて糸を飛ばすよりも…


「何!!!?」


白猫の反応の方が僅かに早かった。


まるで猫じゃらしを追っているような素早い動きで…男が投げつけた煌めくソレを尻尾で搦め捕ると、数回尻尾を左右に揺らして、そのまま男に返したんだ。



それは…男の腕を掠め、メイド服の布地が裂けた。


「う……っ」


途端男は、口から泡を吹いて痙攣を始めた。


「さ、さささ桜ちゃ・・」

「毒針です。まさか猫に返り討ちにされるとは本人も思っていなかったのでしょう。反応が遅れた結果です」


そう至って冷静に、皮肉めいて笑ったけれど。


「は、葉山!!! 服…服から見えるそれ!!!」


突如由香ちゃんが指を差した。


針が裂いた腕から、男の…入れ墨みたいなものが見えて。

その刻印の形にドキリとした。


やはり訝った桜ちゃんが服地を大きく破ったら…。


「黒い薔薇?」


あたしの首についている、血色の薔薇の痣とは薔薇の形状が違う。


初めて見る…黒い一輪の薔薇の花。

何故か無性に、心を刺激する薔薇の花。


何だろう。


――……さん、このお花はなあに?


何処かで…あたし、これを見たことがあるような。


――…これは薔薇。……の印なんだよ。


曖昧な記憶が、何か刺激されていく。