「まさか、自分でもやる羽目になるとは思っていなかっただろうがな。クリアすることも出来ないし、かといってゲームオーバーにも出来ない。それは情報屋、事情を知ってたお前とて同じだろう」


にやりと笑って俺が聞けば、聖は横を向いて口笛を吹き、


「黙秘権や」


…判りやすく、反応してくれる。


「お、おい。あの緋狭姉がにゅうって出て来るの…クマが作ったのか? あの変態ワンコ…お前が作ったのか!!!? 更に!!! 久遠に芹霞かっぱらわせたのも、お前なのか、ああああ!!!? クマがワンコ作るって…どういう了見だ、あああああ!!!?」


「…如月、落ち着け。君はどうして問題点がずれるんだい!!!」


遠坂が、クマに躙(にじ)り寄る煌の腕を両手で…体重をかけて制しようとしているが…体格の差で引き摺られている。


「草案は氷皇だ、恐らくは。そして多分、あの絵を描いたのも氷皇だ。

緋狭さんからの案内人は聖。

そこから先は…氷皇からの案内人のクマだということだろう。クマを"使って"いるのは氷皇だ」


そう俺が言うと。



「がはははははは!!!」



突如クマは豪快に笑いだし、拍手を始めた。


「さすがさすが、さすがは『白き稲妻』の慕う絶対主!!!

あんな状況下、崩れる処かちゃんと状況判断していたとは!!

がははははは!!! 本当はもっと然(しか)るべき時に然るべき方法で、感動的に明かそうとしていたんだがな…? 何、隠し続ける気はなかったさ。俺は『白き稲妻』が可愛いものでな。いくら氷皇との"約束"だろうと、『白き稲妻』を裏切る真似はしないから、それは安心してくれ。

お前さんの疑惑がかったその鋭い目で、この先ずっと見られていたんじゃたまったものじゃない。結構俺の心臓は小さいんだ。がははははは!!!」


「お前、氷皇の手先だったのか!!!?」

「如月~止まれ~!!! 小猿くん、ヘルプ、ヘルプ!!!」


「いいや『暁の狂犬』。俺は手先ではない。それに氷皇はそんな簡単に部下など作らない男だ。作る気なら、一から自らの色で染め上げ…絶対的なる忠誠を誓わせる。

生憎…俺は"目的"があるからな。氷皇にも借りがある。ギブアンドテイク的な協力はするが、支配される気はない」


絶対的忠誠…。


俺は、榊を思い出した。


氷皇を主と呼び、そして氷皇が認める唯一の腹心。


それが拷問具のような仮面に、端正な顔を潰され…口は縫われ…そして多分は、その体も機械じみたものになっているのだろう。


唯一生身の…榊の肉体だと言えるのは、片目。

あの…綺麗なアーモンド型の目。


遠坂は…知らない。


兄は義眼になって元気で帰ってくることを信じている。


言えやしない。


あんな惨たらしい姿…口にもしたくない。


誰が、彼をあの姿に縛り上げたのか。

彼の立ち位置は何か。