それから、不可解にも動く気配は一切なかった。
まるで何事も無かったかのように、不穏な気配は払拭されていて。
僕達が動かないからだろうか。
そこまでこの部屋には来たくないのか。
とりあえずは、この部屋にいた方が安全だろう。
桜も、あの気配に最大の警戒を払っている。
気は抜けない。
同時に、こちらの作業も進めねば。
「よし、大体プログラムができたから、処理を始める。結構複雑なものだから、動き出すまでにかなり時間がかかりそうだ。細かい部分の修正は後で手作業で、暫定的に行くことにしよう」
さあ、忌まわしい色のパソコン。
しっかり働いてくれよ?
「ああ、そうだ師匠。実はクマは氷皇の使いで、紅皇が使わした情報屋共に紫堂を裏世界に案内する役目があったんだ。裏世界の住人だったんだ」
「三沢さんが…? 氷皇の?」
「やはり師匠の関心は、誰に使われていたか、であって…裏世界の住人という処ではないんだね」
由香ちゃんが薄く笑う。
「三沢さんは…かなりワケありだと思っていたよ。僕達が見ているのと別の顔があるの判ってたし。妻子の復讐を忘れていないのに、あんな大らかに表世界に居れるのが不思議だった。だけど…裏世界の住人だと断言出来る程、彼を知らなかったし追及してなかったんだ」
「そうか…。クマは随分と師匠がお気に入りのようで、師匠に賭けて、紫堂を裏切らないと言ってたよ」
三沢さん…。
前から僕を可愛がってくれていたんだ。
恐らく僕の中の"狂気"を、見抜いていたと思う。
僕でさえ…三沢さんの、復讐という"狂気"に共鳴していたのだから。
三沢さん…。
貴方を信じます。
どうか…櫂を守って下さい。
僕の代わりに――。
「しかしボク、クマが氷皇と繋がっていたとは何か意外で。
紅皇が派遣したのは騒がしい聖、氷皇が派遣したのはのほほんとしたクマ……。逆でもいい気がするんだけれど…」
僕は苦笑した。
「それからね、師匠が此処で実験台にされている『TIARA』計画…これは元は白皇の案でそれを裏世界の人間が引き継いでいるらしい。
紫堂は…それを見つけに行って師匠を助けたいって」
「櫂が…」
胸が…じんときてしまった。

