「煌…」
櫂は笑った。
「根本は、何も変わらない。
お前だって、変わらないだろう?」
櫂の根本は何なんだろう。
首元に揺れる小さな指輪。
どう見ても安物のガラクタ。
だけどあれは…櫂にとっては思い出の、大切な品なんだろう。
芹霞が赤い箱に入れる程には、櫂にとっても重要なものなんだろう。
時折櫂が、その指輪を握り締め、唇を寄せていたのに気づいている。
辛そうでだけど幸せそうで。
12年分の、芹霞への愛がそこにはあった。
その愛に触れると、櫂の顔がより"男"のものとなる。
美貌が一際強く輝くんだ。
俺が憧れる気高き獅子は、限界知らずに…更に上に行くのだろう。
美も強さも。
芹霞への愛故に。
そんな気がするんだ。
だけど――
そんな男を、芹霞は選ばなかった。
――玲くんが好きです。
………。
ああ、やべ。
また思い出してきちまった。
ずずんと気分が滅入りそう。
俺は頬をぱしぱしと叩いて、気を引き締める。
俺は今、櫂と共に…裏世界に来ているんだ。
こうした油断が、櫂を危険に陥れる。
ふと、思う。
今…櫂と共に裏世界に来ていなかったら。
もし櫂が裏世界に連れるのが桜で、俺が玲と芹霞の元に行っていたら。
俺は…ここまで精神を落ち着かせていられただろうか。
ふと一瞬…ちらりと思い出すだけで、心がこんなにきりきりと痛むのに…2ショットの現場に俺が居たら…。
多分、荒れ果てていただろうと思う。
櫂が力を暴走させてまで荒れた心が、俺にはよく判るんだ。
俺は櫂程、物分かりはよくねえ。
だけど櫂は――
玲に負けたと潔く認めて、
その上で奪いに行こうとしている。
玲との友情を反故にするわけではなく、憎悪や怨恨をぶつけるのではなく…今まで通りの慈愛を持って、やはり窮地にいるままの玲を救おうとしている。
櫂は…どちらも諦めない。
2つとも手に入れる為に、
自分を強くさせようとしている。
きちんと自分が納得出来る、状況打開策を打ち出したんだ。
例え緋狭姉が暗躍し、久遠が心を露にさせてまで、櫂の心を壊さずに動いたのだとしても、櫂は自ら最良の答えを出し、裏世界へ行く決意を固めた。
その…頭の切り換えの早さと、意思の強さ。
俺にあるだろうか。

