裏世界になぜ黄色い外套男が!?


まさか、櫂様を狙う刺客として……!?


慌てて視線を向けた先……周涅は、目覚める気配はなく、次幕の詳細を確かめる術はない。

ただわかることは、もしも朱貴の説得に耳を貸さずに、早い段階で全員の力で周涅を取り押さえていたら、多分あの時想定された未来は、櫂様にとってもっと過酷だっただろう。

今は、まだマシな事態だろうことは、朱貴の動じていない姿から予想出来た。


朱貴は、知っているのだろうか。


黄色い外套男の出現、そして正体。

なぜ裏世界に、突如現れたのか。

それは今後、櫂様達にどんな影響を及ぼすのか。


過去を思い返せば、"黄色"は、櫂様にとってプラスになるとは思えなかった。


不気味なまでに沈黙を守る朱貴こそが、映像を紐解く唯一の情報源。

その一端に噛み付いたのは、七瀬紫茉だった。


「どういうことだ!? 黄色い蝶が消えたのは…あの男のせいなのか!?」


七瀬紫茉の声に、周涅を治療している朱貴は、妙に押し沈めた声で淡々と言った。


「黄色い蝶と"黄衣の王"は、対極に位置する不可侵の関係。あいつが出れば、蝶は消える。これは道理。なにも不思議なことではない」


ということは――?


私は思わず、尋ねる。


「あの蝶は、過去幾度ともなく、私達に襲いかかろうとしていた。ならば、その反対軸にいるあの男は、私達の敵では無く…味方だというのか!?」


私の声に、朱貴からの返事は返らない。

代わりに聞こえた言葉は、


「黄色い蝶は、歪んだ世界の"継ぎ目"が顕著になった時に現れる、真実を知らせる指標。愚かで脆い…まがいものを啄み、真の姿に還そうとする」


蝶が啄むのは…目。

人の…少女の目。


目を無くせば、真の姿に還るということは――、

…見えないものこそ、真実…だとでも?


「真実の楽園を望むのなら、蝶の洗礼を受ければよい。蝶の誘いの先に、楽園…サンドリオンはある。だからこそ皇城では…」


緊張感を招く言葉は、まるで他者に向けた呪言のようで――、


「楽園の主(オーナー)羅侯(ラゴウ)の御使い、と言われている」


嘲るような声音は、己に向かう自虐のよう。


朱貴の放つものもまた、両極に位置しており、そこから朱貴の感情を窺い知ることは出来ない。

ただ、ひとつ気になった。


黄色い蝶が羅侯(ラゴウ)側だとするのなら、蝶と両極にいる黄衣の王…もとい黄色い外套男は、羅侯(ラゴウ)と敵対するものだということなのだろうか。


それは即ち――、


「あの外套男は、羅侯(ラゴウ)を敵とする皇城の者、なのか?」