「"色"に惑わされるな……くちゅん、くちゅん」

「緋狭姉、どうした? 風邪か!? 鼻水……まあいい、俺の服でかめよ」


風邪の音が静まりつつある中、豪快な…鼻をかむ音が聞こえてくる。


「……遠慮くらいしろよ、ネコのくせになんでこんなに……」

「仕方ないだろう。埃と…あいつ特有の"粉"が、この姿には弱いのだ」


コツン、コツン……。


現れるのは――



「粉ってなんだよ?」

「蝶の粉、鱗粉だ」



青白い仮面をつけた、黄色の外套を体に纏った男。


男が俺達の前で立ち止まった時、


「はあああ!? 蝶なんてどこにいるよ!?」


砂嵐は――完全に消えた。

消えてしまった。



――蝶の粉、鱗粉だ。


黄色い蝶の元で現れる黄衣の王。

約束の地(カナン)でも黄色い外套男は現れ、黄色い蝶が飛んだ。


この場に彼がいるということは、目を抉る…見えない蝶が、また飛んでいるのだろうか。


蝶が見える玲は硝子の塔。

蝶を偃月刀で斬れる煌は、蝶が見えない。


そして緋狭さんは、いつもの多大な力がない。

久遠の力は、約束の地(カナン)では蝶を滅せられるものではなかった。


今、俺が見えない真実の姿は、どんな景色だ?

なんのために、緋狭さんはこの男を待っていた?


「坊、ここを乗り切るためには、こやつの協力が必要だ」


今の状況に、なぜこの男が必要なんだ?


どくん。


なんだ、このひっかかり。


黄衣の王がこちらを見ている。


どくん…。


榊は、嵐を鎮められるだけの力を手に入れるのと引き替えに、人としての肉体を失ったのだろうか。


この世界の住人は、外界からの人間を治療して黄色の衣と仮面をつけさせて、一体なにをしようとしていたのだろう。


その説明は夢路の話には出てこなかった。

むしろ、そこの部分を誤魔化された。


――色に惑わされるな。



緋狭さんが言う色とは、なんの色?




どくん…。



緋狭さんをいつも助ける氷皇。

緑皇曰わく、その氷皇は、緋狭さんが反旗を翻した黄皇側にいるというのなら。


氷皇の懐刀であり、氷皇を心酔していた榊は――、

今、黄色を纏っている榊は――、



本当は何色なんだ?




なんだ、この感覚…。

なんだ、この胸のひっかかり。




点と点は、繋がりそうで…まだ線にはならない。