「ん…。そういえば、あそこには…結構な電力があったな。まだ虚数に満ちる前だったから、今となってはどうなっているか判らないけれど」


「あそこって?」


「僕が行ってた処。だけど…僕は何処に連れて行かれていたのか、よく知らないんだ。わざと判らないようにしていた感がある。目隠しされて蛇行歩行させられて、記憶の固定化も妨げるような徹底ぶり。皆無口だったしね。

……ああ、そうだ。芹霞に言ってなかった」


「なあに?」


「僕にくれた携帯のストラップ。そう、ティアラ姫。今ね…ただのティアラちゃんになって、拉致されているんだ」


「ティアラちゃん? 拉致?」


「ん…実はね、その連れられた場所で、引っかかってしまって…ティアラ姫の星冠(ティアラ)がもげ落ちてしまってね…」


そういえば、玲様は芹霞さんから貰ったティアラ姫を…。


「僕、USBに改良していて、星冠(ティアラ)を蓋にしてたんだけれど、それを携帯しているのがばれちゃって…取られたんだ」


「OH!!! それは早く助けにいかなきゃ!!!」


「……待てよ。USBがまだ捨てられてなかったら…。あの中に入っているプログラムを遠隔で操作出来れば、場所が特定出来るかも…。

ああ、だけど駄目だ。結局はメインコンピュータが動かないと話にならない」



バタバタバタ…。



「何だか随分と家の中が騒がしいな」

「そうですね、バタバタ…」


私も頷く。



こんな朝から、廊下で走っているのは誰だ?

当主がいないからと気が弛んでいるのか?


「玲様、ちょっと様子を見て参ります」


私は廊下に出た。


走っているのは紫堂の給仕達。


その1人の女性を呼び止め、事情を聞いた。


「泥棒が…忍び込んでいるようです!!!」


この、紫堂本家に?

警護が強固なこの屋敷に?


ありえない。