シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「おかげで当主が目論んでいた表の世界での計画は頓挫してしまった。学者としても名高かったパパに抜けられたら、人材はおろか残された僅かな遺伝子でなにも出来ない。だけどね、パパサン……白皇の助言で、遺伝子"複製"も実験していた。その方法は残された者達が記憶していてね、あっという間にこれだけの遺伝子を複製出来た」


この部屋の数の胎児は百は下らない。そして次々に変えられていく容器を思えば、その数は未知数。


「紫堂当主はなぜ電脳世界を……?」

私の問いに、周涅は軽く返した。


「紫堂当主は願いがあるようだ。それを叶えたいために皇城に協力している」

「望みとは?」

「そこまでは知らない。皇城は、そこまで彼には興味がない」


「つまり、今のこの状態にした黒幕は、紫堂ではなく皇城ということか」

玲様の抑揚ない低い声に、


「ご名答」


周涅はおちゃらけた口調で肯定した。


「お前達はなにをしようとしているんだ?」

静かに、怒りを言葉尻に含ませて、玲様が聞く。

「玲くんなら気づいているんじゃない? この場所から放たれる溢れんばかりの"-1"。虚数と呼ばれるものの存在に」


玲様の体がぴくりと反応する。


「容器に繋がっているチューブからは"0"と"1"を感じるのに、それが繋がった……恐らく地下からは虚数。なにをしているんだ!!」


怒気が言葉に表れてくる。


「まんまだよ? 地下の機械も気づいちゃったんだ~。さ~すが。地下の機械で、0と1を虚数に変換している。無論ここの設備や自警団が見れる東京都の個人データも管理してる。だったら、もう気づいているよね。なにを元に0と1が生み出され、虚数に変換したものがどこに行くのか」



玲様は、唇を噛んで痛ましい表情をする。


「言えないなら、周涅ちゃんが言ってあげよう。胎児だよ。胎児の生命をあの容器で0と1に変え、虚数に変えたものを…電脳世界に送っている。人工生命のように複製増殖させた遺伝子は、胎児という命を削り取り、ランダムに0と1を作っていく。それは生命から人工生命を作るという、従来の発想の逆転。そうして君の遺伝子を受け継ぐ者達は、君の愛する電脳世界への刺客となっていく。こちらが意図したプログラムにそった、純粋なる0と1を穢す虚数としてね」


それが電脳世界に虚数が増えた理由だと周涅は笑った。


「電脳世界はそんなに甘くない!! 命を電気に変えるなんて」

「Zodiac……って知っているよね?」


突然振られたその固有名詞。


「彼らさ、イグ、レン、ハンって言うんだけど、これはある魔術書から由来しているんだ」


なにを言い出すつもりだ?