シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




「ふえっ……」


耐えきれないという泣き声を漏らしたのは、いつの間にかこの部屋に踏み入れていた芹霞さんだった。


「あたし……」


だらだらと大きな両目から流れる涙を拭おうともせず、玲様に後ろから飛びつくように抱きついた。


「玲くん、あたし……ごめんなさい。あたし……戦うって言ったのに、玲くんと……ごめんなさい。逃げてごめんねッッ」


それはなにに対しての謝罪なのかよくわからなかったが、玲様はわかっているのかも知れない。


「あたし、らしくもないネガティブに囚われて、逃げ回ってたの。もっと遙かに大きいことを玲くんが抱えているの、忘れてたの。玲くん、あたしもう逃げないから。前に進むから!! ごめんね、逃げようとしたあたしを許して、ごめんなさいッッ!!」


玲様の腹の前で組まれた芹霞さんの手を、ぎゅっと掴んだから。

そしてそのまま、びっしり詰まった容器を睨み付けるように見つめながら、玲様もまた、流れる涙を拭おうとしなかった。


ざっと音がした。

朱貴が足を進めた音だった。


「玲の子供の肉体は人としては成り立たないものだった。だから人型関係なくその遺伝子を活用しようとした時、お前の父親がお前の子供のデータや形骸を持って逃げた」


「父が?」


玲様の鳶色の瞳が朱貴に向く。


それに答えたのは、朱貴ではなく――


「元々TIARA計画とは、お前の父親が作ったものだ。それを紫堂が受け継ぎ、皇城が利用した。それだけのこと」


七瀬紫茉に連れられた周涅だった。


観念したかと思えばそうでもないようだ。

敵意はひしひしと伝わってくるから、妹に諭され渋々と姿を現わしたのかも知れない。

あれだけ妹に平手を食らっていて、それでも彼女には従うその理由が知りたい気がする。


周涅にいまだ巻き付く私の裂岩糸。

逃れようともがいた周涅の形跡は、彼の体に傷として残っている。

その光景がどうしてもありえないものとして私の目には映る。


両手を縛った時には、鎖を引き千切ったくせに、二度目が解けない理由がよくわからない。

微かに周涅の息があがっている理由がわからない。


私は、この鎖を一過性のものとしての効果を期待していた。永続的に縛り付けられるほど、周涅は決して弱くないから。

私の技を解けないほど、周涅は疲労しているというのか?

そこまで玲様とクオンの攻撃は凄まじかったのか?

理由のひとつにはあるだろうが、それが決定的要素ではない気がする。

なにかまだ周涅は隠し玉を持っているような気がして仕方がない。

だから、妹に従う形でここに現われたと思うのは、邪推なのか。

――あはははは~。

必然に動く氷皇と、同じ顔をしているからなのか、どうしても周涅には、"諦める"ということが無縁な気がする。