「ふえっ……」
耐えきれないという泣き声を漏らしたのは、いつの間にかこの部屋に踏み入れていた芹霞さんだった。
「あたし……」
だらだらと大きな両目から流れる涙を拭おうともせず、玲様に後ろから飛びつくように抱きついた。
「玲くん、あたし……ごめんなさい。あたし……戦うって言ったのに、玲くんと……ごめんなさい。逃げてごめんねッッ」
それはなにに対しての謝罪なのかよくわからなかったが、玲様はわかっているのかも知れない。
「あたし、らしくもないネガティブに囚われて、逃げ回ってたの。もっと遙かに大きいことを玲くんが抱えているの、忘れてたの。玲くん、あたしもう逃げないから。前に進むから!! ごめんね、逃げようとしたあたしを許して、ごめんなさいッッ!!」
玲様の腹の前で組まれた芹霞さんの手を、ぎゅっと掴んだから。
そしてそのまま、びっしり詰まった容器を睨み付けるように見つめながら、玲様もまた、流れる涙を拭おうとしなかった。
ざっと音がした。
朱貴が足を進めた音だった。
「玲の子供の肉体は人としては成り立たないものだった。だから人型関係なくその遺伝子を活用しようとした時、お前の父親がお前の子供のデータや形骸を持って逃げた」
「父が?」
玲様の鳶色の瞳が朱貴に向く。
それに答えたのは、朱貴ではなく――
「元々TIARA計画とは、お前の父親が作ったものだ。それを紫堂が受け継ぎ、皇城が利用した。それだけのこと」
七瀬紫茉に連れられた周涅だった。
観念したかと思えばそうでもないようだ。
敵意はひしひしと伝わってくるから、妹に諭され渋々と姿を現わしたのかも知れない。
あれだけ妹に平手を食らっていて、それでも彼女には従うその理由が知りたい気がする。
周涅にいまだ巻き付く私の裂岩糸。
逃れようともがいた周涅の形跡は、彼の体に傷として残っている。
その光景がどうしてもありえないものとして私の目には映る。
両手を縛った時には、鎖を引き千切ったくせに、二度目が解けない理由がよくわからない。
微かに周涅の息があがっている理由がわからない。
私は、この鎖を一過性のものとしての効果を期待していた。永続的に縛り付けられるほど、周涅は決して弱くないから。
私の技を解けないほど、周涅は疲労しているというのか?
そこまで玲様とクオンの攻撃は凄まじかったのか?
理由のひとつにはあるだろうが、それが決定的要素ではない気がする。
なにかまだ周涅は隠し玉を持っているような気がして仕方がない。
だから、妹に従う形でここに現われたと思うのは、邪推なのか。
――あはははは~。
必然に動く氷皇と、同じ顔をしているからなのか、どうしても周涅には、"諦める"ということが無縁な気がする。

