「どいつもこいつも……!!」
時折、私達や朱貴ではなく――壁の向こう側を見るのはなんでだろう。やはり壁の破壊を迅速に、最優先すべきかもしれない。
朱貴の詠唱はまだ続いている。
ならばその詠唱が終わるまでの間だけでも。
「玲様。私がまた周涅の手足を拘束します」
周涅の猛攻撃を躱しながら、玲様が笑った気がした。
「そうだね、お前の力が必要だ」
つられて私も笑った。
「ニャ…」
ハゲネコも、歯を剥き出しにして笑えば、唸るような声を上げた周涅の猛攻撃が始まった。
それでもわかる。
やはり周涅は壁の破壊を阻止したいのだと。
ならば破壊を早めるためにも……私がすべきことはひとつ。
「葉山ああああ、解けええええええ!!」
太鎖状になった私の裂岩糸が螺旋を描くように、周涅の体に巻き付いてその動きを封じ込めた。
そして――
「――今ここに、北斗の力を授けたまえ。急急如律令」
朱貴の詠唱が終わり、
「朱貴、わかっているのか!!? そんなことをしたら、対抗手段はひとつになってしまうんだぞ!!? こんな蛆虫に今までの努力が!!」
「お前に……"努力"など、無縁だろう」
手印を結んだまま、淡々とした朱貴の声が聞こえた。
「予言は、変えられない。それが運命だ」
「朱貴!!」
「周涅。諦めろ」
「裏切るのか!!」
すると朱貴は自嘲気に笑った。
「元より、裏切ると言われるほどの信頼関係はない。俺が従っているのはお前ではないことは、お前だってわかっているはずだ」
「貴様っっ!!」
「――はっ!!」
朱貴が手印を解いて気合いのような声をかけると、どーんという音が響き、建物がぐらぐらと揺れた。
そして壁に、亀裂が走ったのが見えた。
剥がれ落ちる白い塗料。
そして見えたその壁は、漆黒色に赤い模様。
見慣れたその不吉な壁にも亀裂は入り、蜘蛛の巣のように複雑な亀裂となり範囲を広げていく。
やがて――。
ガラガラガラ。
人ひとり入るくらいの陥没が開いた。
壊してしまえたのだ、朱貴はやはり。
しかしその顔は爽快そうではなく、苦しそうだった。
そんな表情をする理由がわからず訝る私の横では、突如玲様が、ふらふらと……穴の向こう側に歩いて行ってしまう。
「玲様……?」
「なんだよ、これ……」
玲様の後を追っていった私の目に映ったものは、今までの部屋より数倍広い空間。
そして――
「これは……?」
両脇の壁にびっしりと並べられていたのは、
拳大くらいの大きさの、茶色いものだった。

