シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「どいつもこいつも……!!」


時折、私達や朱貴ではなく――壁の向こう側を見るのはなんでだろう。やはり壁の破壊を迅速に、最優先すべきかもしれない。


朱貴の詠唱はまだ続いている。

ならばその詠唱が終わるまでの間だけでも。



「玲様。私がまた周涅の手足を拘束します」


周涅の猛攻撃を躱しながら、玲様が笑った気がした。


「そうだね、お前の力が必要だ」


つられて私も笑った。


「ニャ…」


ハゲネコも、歯を剥き出しにして笑えば、唸るような声を上げた周涅の猛攻撃が始まった。

それでもわかる。


やはり周涅は壁の破壊を阻止したいのだと。

ならば破壊を早めるためにも……私がすべきことはひとつ。


「葉山ああああ、解けええええええ!!」


太鎖状になった私の裂岩糸が螺旋を描くように、周涅の体に巻き付いてその動きを封じ込めた。


そして――


「――今ここに、北斗の力を授けたまえ。急急如律令」


朱貴の詠唱が終わり、


「朱貴、わかっているのか!!? そんなことをしたら、対抗手段はひとつになってしまうんだぞ!!? こんな蛆虫に今までの努力が!!」


「お前に……"努力"など、無縁だろう」


手印を結んだまま、淡々とした朱貴の声が聞こえた。


「予言は、変えられない。それが運命だ」

「朱貴!!」

「周涅。諦めろ」

「裏切るのか!!」


すると朱貴は自嘲気に笑った。


「元より、裏切ると言われるほどの信頼関係はない。俺が従っているのはお前ではないことは、お前だってわかっているはずだ」

「貴様っっ!!」



「――はっ!!」


朱貴が手印を解いて気合いのような声をかけると、どーんという音が響き、建物がぐらぐらと揺れた。

そして壁に、亀裂が走ったのが見えた。

剥がれ落ちる白い塗料。

そして見えたその壁は、漆黒色に赤い模様。

見慣れたその不吉な壁にも亀裂は入り、蜘蛛の巣のように複雑な亀裂となり範囲を広げていく。


やがて――。


ガラガラガラ。


人ひとり入るくらいの陥没が開いた。


壊してしまえたのだ、朱貴はやはり。

しかしその顔は爽快そうではなく、苦しそうだった。

そんな表情をする理由がわからず訝る私の横では、突如玲様が、ふらふらと……穴の向こう側に歩いて行ってしまう。


「玲様……?」

「なんだよ、これ……」


玲様の後を追っていった私の目に映ったものは、今までの部屋より数倍広い空間。

そして――


「これは……?」


両脇の壁にびっしりと並べられていたのは、

拳大くらいの大きさの、茶色いものだった。