芹霞さんは眉間に皺を寄せて難しい顔を玲様に向けていたが、やがてコメカミあたりを指で押さえ始めた。
「……痛っ」
拒絶反応なんだろう。
それだけ深く櫂様の"死"が刻まれている。
それだけ、櫂様のことが身体に刻まれている…証。
「芹霞……」
玲様は達観したように哀しげに微笑まれて、そっと芹霞さんを抱き寄せると、額に唇を寄せられた。
「ゆっくり…思い出していこうね…」
私は――
思わずその場面から顔を背けてしまった。
それまでの玲様の幸せに満ちた顔と、今の…辛そうな顔が、あまりにも差違がありすぎて…切なくなってしまったんだ。
誰の心を考えても、幸せな者はいない気がする。
芹霞さんの心でさえ、もしかすれば…櫂様を求めて泣いているのかもしれないんだ。
それを感じれば、玲様の心だって泣く。
忘れられた櫂様の心だって泣く。
そんな櫂様を支えている馬鹿蜜柑の心だって泣いている。
泣いていないのは…私だけ。
私が…泣くわけにはいかないんだ。
私は…傍観者でいると決めているのだから。
芹霞さんの頭痛の治まりを待って、玲様はまた続きを話された。
「紫堂当主が、僕と櫂と久涅を毛嫌いしているのは理由があるかもしれない。とりわけその事実確認を急ぎたい処だ。だけどこの表世界には、久涅の情報が少なすぎる。それは多分…櫂や煌がやってくれるはずだ」
静かな微笑みには、絶対的な信頼感が漲(みなぎ)っていた。
「僕達はそれ以外を調べよう。
話を戻すね。どちらにしろ…当主にとって久涅は鬼門だ。
そう考えたら…レグが推す久遠と、当主が嫌う久涅が同じ"イベント"に出ているということがおかしい気がするんだ。
"約束の地(カナン)"に来た当主は…昔久遠と会ったことを否定しなかったのだから、久遠の記憶は間違っていない。
だとしたらだよ? あの紫堂当主が、自ら久涅を連れて山の中の各務家に来た…ということ。無駄を嫌う当主がわざわざ何の為に? 紫堂と各務が仲がいいのなら判るけれど、2人の会話では、対面はその…昔1度きりだと言っている」
久遠が途中リタイヤした"何か"。
そこに久涅を押し込んだ紫堂当主。
血痕。消えた子供達。

