シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



芹霞さんは眉間に皺を寄せて難しい顔を玲様に向けていたが、やがてコメカミあたりを指で押さえ始めた。


「……痛っ」


拒絶反応なんだろう。

それだけ深く櫂様の"死"が刻まれている。


それだけ、櫂様のことが身体に刻まれている…証。



「芹霞……」


玲様は達観したように哀しげに微笑まれて、そっと芹霞さんを抱き寄せると、額に唇を寄せられた。


「ゆっくり…思い出していこうね…」


私は――

思わずその場面から顔を背けてしまった。


それまでの玲様の幸せに満ちた顔と、今の…辛そうな顔が、あまりにも差違がありすぎて…切なくなってしまったんだ。


誰の心を考えても、幸せな者はいない気がする。


芹霞さんの心でさえ、もしかすれば…櫂様を求めて泣いているのかもしれないんだ。

それを感じれば、玲様の心だって泣く。

忘れられた櫂様の心だって泣く。

そんな櫂様を支えている馬鹿蜜柑の心だって泣いている。


泣いていないのは…私だけ。


私が…泣くわけにはいかないんだ。

私は…傍観者でいると決めているのだから。


芹霞さんの頭痛の治まりを待って、玲様はまた続きを話された。


「紫堂当主が、僕と櫂と久涅を毛嫌いしているのは理由があるかもしれない。とりわけその事実確認を急ぎたい処だ。だけどこの表世界には、久涅の情報が少なすぎる。それは多分…櫂や煌がやってくれるはずだ」


静かな微笑みには、絶対的な信頼感が漲(みなぎ)っていた。


「僕達はそれ以外を調べよう。

話を戻すね。どちらにしろ…当主にとって久涅は鬼門だ。

そう考えたら…レグが推す久遠と、当主が嫌う久涅が同じ"イベント"に出ているということがおかしい気がするんだ。

"約束の地(カナン)"に来た当主は…昔久遠と会ったことを否定しなかったのだから、久遠の記憶は間違っていない。

だとしたらだよ? あの紫堂当主が、自ら久涅を連れて山の中の各務家に来た…ということ。無駄を嫌う当主がわざわざ何の為に? 紫堂と各務が仲がいいのなら判るけれど、2人の会話では、対面はその…昔1度きりだと言っている」


久遠が途中リタイヤした"何か"。

そこに久涅を押し込んだ紫堂当主。

血痕。消えた子供達。