「な、なに!? 周涅に謝れって!? 無理。紫茉ちゃんは優しいから妹ちゃんやってあげてるけれど、あたし妹になりたくない。こんな男とは速攻縁切りたいわ」
芹霞さんは芹霞さんで、周涅に馬鹿笑いされていることに、ますます怒りのボルテージを上げてしまったらしい。
「蒼生ちゃん以下よ、このうざったさ」
ぷちっ。
芹霞さんの比較対象が、周涅の怒りの琴線にひっかかったらしい。
私達の警戒を強める不穏な音が周涅から聞こえたかと思うと、化けネコは一声出して、周涅の…皆の視線を自分に集めた。
凛然とした顔つきの、美しい顔立ちの化けネコ。
なにかをしようとしているのは一目瞭然で。
場を平定でもしようとしているのか。
そして――。
「!!!?」
笑いだしたのだ。
歯を剥き出しにした顔で。
どう見ても、馬鹿にして笑っているようにしか思えない。
どう見ても、状況を悪化させているだけにしか見えない。
周涅を散々に扱き下ろした芹霞さん以上に、話せない化けネコ最大の侮蔑をくれてやるために、わざわざ真っ正面に降り立っただけとしか思えない。
ああ、私達を救うのではなく、追い詰める――さすがは化けネコ様だ。
ぶちん。
どこかの神経が完全に切れたような音が聞こえた気がした。
すると――。
「このクソネコ、今度こそ潰してやる!!」
異性とはいえ同種族ゆえにまだ鎮めていられたらしい周涅の怒りは、異種の…彼が"弱者"とする、しかもわけのわからない存在によって爆発し、その高すぎるプライドを致命的に傷つけられたらしい。
ぶわりとした風が巻き上がったかと思えば、それは周涅の足が動いたからで。それを軽やかに化けネコは躱した。
「ニャ……」
また歯を剥き出しにして笑う。
どうして、どうしてこの化けネコは、周涅を怒らせるのだろう。
どうしてここまで、馬鹿に出来るのだろうか。
「潰してやるわ!!」
「ニャアアアア!!」
火炎を吐く化けネコVS押し返す周涅。
完全私達は蚊帳の外。
「大丈夫か、朱貴」
よろめいた朱貴を玲様が支えてた。
「ああ、それより早く玲。クオンがあいつの気をそらしてくれている間に」
「気を……そらせる? 馬鹿にしていたとしか……」
遠坂由香の声に、朱貴は秀麗な顔を歪めさせて言う。
「阿呆が。クオンは賢しいネコだぞ、無意味なことはしない」
……皆、過去を思い出して、懐疑的に思っているはずだ。
化けネコ姿も、賢しさの一部か?と。

