そんな時、
「紫茉ちゃんと朱ちゃんが結婚? ありえないよ。考えだけでもおかしくてたまらないや。ありえないよね、朱ちゃん」
「ああ」
朱貴の即答がやけに部屋に響いた。
瞬間、七瀬紫茉の整った顔に、傷ついたような色がよぎる。
彼女は…無自覚なりに、朱貴を好きなんだろうか。
「はははは、ははははは」
周涅は――笑っている。
笑い続けている。
私や玲様が、"違和感"を感じ始め、あたりを観察し始めたのをわかっていながら。
……この男が、私達の動きに気づかない方がおかしい。
ああ、なんだ?
周涅はなにを狙っている?
なぜ周涅は動かないのか。
なぜ無駄話を続けているのか。
仮にも少し前までは、術を使って私達を捕獲しようとしていたのだ。それなのに、なぜ捕獲に乗り出さない?
これならまるで、捕獲前提の時間稼ぎをしているかのようだ。
なぜ?
そして――
久涅はどこに行った?
その時、私の脇になにか触れた。
目を落とせば、白いふさふさの手。
ぺちん、ぺちんと私の脇を叩いて、瑠璃色の瞳を向けてくるネコ。
そしてくいっくいっと顎を動かして、自分を床に下ろせと言ってるように思えた私は、周涅すら注視する中、これが戦闘の合図にならぬよう慎重にカバンを置いた。
すると化けネコカバンは一度ぶるりと身震いをし、すたすたとその四肢で歩き出し、周涅の前で止まると、周涅の顔を見上げた。
そういえば、紫堂本家で玲様救出の際、まだ神聖なネコだったクオンは、朱貴と共に周涅に攻撃を加えて足止めしてくれていたことを思い出す。
知らぬ仲ではないから、クオンがどれだけ非常識ネコかは周涅もわかっているはずだ。
だからこそ周涅は、クオンのみるからに奇怪な体を揶揄せず、逆に警戒したようにすうっと赤銅色の瞳を細めたのだろう。
互いの腹の底を探り合っているかのように、種族を超えたふた組の視線が交差している。
この化けネコはなにをしようとしているのか。
私が感じている…周涅に対する違和感を、検分あるいは看破でもする気だろうか。
名探偵の如く登場し、暗雲立ちこめたままの場を切り抜ける知恵を与えてくれる気なのだろうか。
毅然と周涅を見つめる化けネコ。
固唾を呑んで見守る私達の前で、化けネコは、紫茉さんに抱きついたままの芹霞さんを見て、再び周涅を見、また芹霞さんに顔を向ける。

