やがて周涅の笑い声が響く。
「ははははは。紫茉ちゃんのお友達は威勢がいいね~。さすが紫茉ちゃん、いい友達を持ったよ」
言葉とは裏腹な、コメカミの青筋は見え隠れするけれど、それでも口調を変えさせるほどの起爆剤(スパイス)とまではいかないらしい。
過去、些細なことでも力で返礼していた男が、耐える様はなんとも違和感があった。
芹霞さんが女性でも、例え七瀬紫茉の友達であっても、周涅なら関係ないように思えるだけに。
皇城と家族以外では、相手が誰であろうと見境なく、自分の機嫌が害されればすぐ攻撃に出る――そんな非道な男ではなかったか。
かつて、笑いながら、私や煌の骨を砕いた男だ。
なにを……考えている?
そして私は、ふと気づく。
周涅の馬鹿笑いの影で、玲様の目が訝しげに細められ、あたりを慎重に走査していることを。
その対象は周涅に留まってはいない。
そして私は思った。
玲様が電気の流れを追い、私達を導いたこの部屋。
それは"サーバー室"であると確信していたけれど、実際目の当たりにするこの部屋は、確かに多くの画面や機械は並べられているものの、過去幾多目にしたものを思えば、あまりに凡過ぎる機械量だった。
私が体感しているこれらの電磁波量をとってみても、家電店で陳列されている大型テレビコーナーの毛を生やした程度で。
こんなものなら、私の素人目からでも、玲様であれば恐れるに足らず、遠隔的でも力で統制出来そうに思った。
東京にどれ程の規模で配置されているのかわからない自警団が、一斉に参照しても耐えうる莫大な都民データを収めた場所。
さらに、その自警団を次々と作り出し、『ジキヨクナール』を作り、この建物のセキュリティー一切を管理するものが――こんなお粗末なもの?
サーバー室は分散されているのかとも思ったが、玲様が電流の集結先として、迷いなくこの部屋に進んできたことを思えば、多大な電気量を留める場所はここひとつ。
そしてさらに不思議なことは、部屋の入口を吹き飛ばすほどの朱貴の猛攻撃があったのに、この部屋にはそれ以外の瓦解された形跡がないこと。
朱貴が入口付近にだけに攻撃をしていたのか?
それでなくとも七瀬紫茉に関して我を忘れるほど取り乱す朱貴が、不可解な場所を限定させて攻撃をしていたというのもおかしい。
ならば考えられるのはひとつ。
周涅が、入口以外に向けられた攻撃を弾いていたからだ。
攻撃されたくない要素が、この部屋にはあるからだ。
それがあの陳腐な機械類……?

