「よく近未来のSFとかで、複製させられた人間とか、エイリアンの子供がずらっと並んだりしているけれど、それに近いものがあるね。気持ち悪い」
由香ちゃんが震えたような声を出す。
「これは更生中なんでしょうか。更正後、なんでしょうか」
「これが更生中だというのなら、あたしの思ってたイメージと全然違ったな。もっと鬼みたいな人がいて、脅されたりして泣きわめいたりして、やがて絶望的に服従していくイメージあったから。穏やかすぎる分だけ、彼らを静かに変貌させるものが怖いよ」
芹霞が呟いた。
「眠らされている間に…・・変わっていっちゃうのかな」
苦痛が伴わないのは幸せなのか、不幸せなものなのか。
「ねえ、ところどころ……暴れてないかい?」
由香ちゃんの指さす先には、四肢をじたばたしているものがいた。
そんな中、天井から筒状の機械が降りて来て、その先端に針みたいなものが突き出ると、そのままその腕に突き刺した。
びくんびくんと痙攣するようにして、やがて眠りに落ちていく。
「頭の機械と……なにかの薬。睡眠剤…麻酔とかかなあ」
「『ジキヨクナール』の可能性もあります。あれは…人によっては苦痛を取り除くものですから」
僕の肩では、眠っているらしい……その効果がある紫茉ちゃんと、僕の傍には、その効果が見られない芹霞。
それを示唆した桜もまた、紫茉ちゃん同様効果がある部類に入る。
"異能力"めいた力を持つ者達で作られた『ジキヨクナール』。
犠牲になった子達一体につき、どれ程の薬が出来上がるかよくわからないけれど、蠱毒効果があるのなら、その用途目的は大きくてもいいはずで。
仮に自警団を組織するために『ジキヨクナール』が作られていたとするのなら、販売停止においこまれた二ヶ月前、何の為に市販されていたのだろう。
風邪薬的な効果は僅かでもあったわけだから、それなりに風邪薬成分は含まれていたはずで。
違うのだろうか、市販薬との薬の成分は。
その時、紫茉ちゃんが小さい声を漏らした。
眠りから覚めたらしい。
「ん……?」
僕はもぞもぞ動く紫茉ちゃんを肩から下ろした。
「気分は……落ち着いた?」
すると彼女は、直前までの記憶を取り戻したようで、急に硬い顔つきになって、ポケットから小瓶を取出し、それをぎっと握りしめると、そのままこくんと頷いた。
「ねえ紫茉ちゃん。君は昔からその薬を飲んでいたんだよね」
「……ああ、周涅に言われて。最初は彼に渡されるものを飲んでいたけれど……朱貴と知り合ってから、あいつがこの瓶ごと常備薬にするように渡されていたんだ…」
『ジキヨクナール』は皇城が開発したのだろうか。
そこに美咲さんら紫堂が絡み、恩を売ったことも考えられる。