知識以外のなにかを推し量ってでもいたのだろうか。

この蠱毒の源となりえる"なにか"を。

ああ、僕が受けた試験は、確かに知識量を測るというよりも、知能テストに近いものがあった。

後天性のものよりも、先天性のものを測定するような。


特待生の判別基準に、後天的な"努力"を必要としないのなら。

必要とする先天性は、人として生まれ持った潜在能力?


僕は異能力があるから、試験をパス出来たとしても……明らかに現代的な普通の子に見えた大野香織は……。


「待てよ?」



――絶対見つけちゃうからね、私勘だけはすっごくいいんだから!!


直感も……先天性のうちか。


「紫茉ちゃん、その先輩……不思議な力があった? 例えば、妙に勘がいいとかいうような……」


紫茉ちゃんはまた小さく頷いた。


「マーク式の模試はほぼ……勘だけで満点とか……。桜華のじゃんけん大会でも……優勝してた……」


「それか」


僕は目頭を指で押さえた。


「あの試験は、やはり潜在能力を測っていたんだ。その結果がいい子がここに連れられ……蠱毒に使われる」


僕は震える紫茉ちゃんの背中を見る。

紫茉ちゃんだって普通よりかなり直感力に優れている。


その彼女が生き長らえているのは――

その兄が周涅であり、朱貴に守られているからだ。


多くの若者を犠牲にしただろう『ジキヨクナール』を作って、なにを企んでいたのだろうか。

その目的が、僕にはまだ見えない。


「こんな時、朱貴はなにやってんだよ!! 寝てるってなにさ!!」


由香ちゃんが憤った声をあげた。


愛する紫茉ちゃんの為だけに動く朱貴が、彼女の単独行動に気づかず眠りこけているなど、本来あり得ない。


そこいらの男であるならば、紫茉ちゃんの解けた黒髪から……紫茉ちゃんに手でも出して、満足感と疲労感に惰眠している、と邪推もできたかもしれないが、朱貴は紫茉ちゃんに対しては、極端過ぎるほど禁欲主義を貫いている。


「紫茉さんの回復に……力を注いだのでしょう」


桜が、大きな目をくりくり動かして言った。


「薬を与えるだけが治療法ではないみたいですし…。玲様と同じ系統の治療法と言いますか…」


その後に続く…歯切れ悪そうな桜の言葉は、突如感じた気配に遮られた。


「遠くから大勢の人の気配がする。サイレンのせいだな。見つかる前に此処から出よう。周涅がいないのが幸いだ」


震えて、立つのもやっとの紫茉ちゃん。

僕は……芹霞を今までのように抱きかかえようとしたけれど、ここは紫茉ちゃんを運んだ方がいいように思えた。


私情は後回し。


まだ泣きじゃくる紫茉ちゃんを肩に担いで、皆を促した。

寂しそうな顔をする芹霞に気づかずに。