「七瀬……この子と友達だったのかい?」
芹霞と一緒に、紫茉ちゃんの背中を摩ってなだめていた由香ちゃんが、八の字眉で聞く。
「知らない……。あたし……また熱出して……、気づいたらベッドで寝てて……。横に居た朱貴が動かないから驚いて……助け呼ぼうと…部屋から出たら……周涅がこの子連れて……部屋に入ってて。周涅に声をかけようとあたしも部屋に入ったんだ」
そして紫茉ちゃんは、震える手でジーンズのポケットから小瓶を取出す。
『ジキヨクナール』
「ここは薬の製造工場なんだと思って、あちこち見て歩いたら……周涅も出入り口も見失ったんだ…。そんな時・・…部屋の片隅の、ゴミ捨て場のようなところに……見つけたんだ……。見えなくなった桜華の…夏美先輩の……学生カバンが……。なんでだろうと色々考えてたら……ベルトコンベアが動く音がして……今までなにも乗ってなかったベルトコンベアに、眠ったこの子が乗せられてきて……それで……!!」
周涅の口振りでは、紫茉ちゃんが歩ける体調ではないということを知っていたようだったから、紫茉ちゃんが朱貴を置いて単独行動をしていたとは、あの時点では気づかなかったんだろう。
もしかすると、紫茉ちゃんの体験は、僕達が周涅と別れてからの出来事だったのかもしれない。
可哀相だけれど――
憤りを感じるけど――、
大野香織は、殺される為に周涅に連れられたように思う。
何の為に大野香織は殺されたのか。
無差別に周涅が選んだわけではないだろう。
――あれ、何で開かないんだろ、あれ~!!? 理事長が案内してくれるっていう時間に向こうの塾に行けなくて、慌てて来たのに…何このオチ!!? この後予定があるのに!!! 確か手続き今日中だよね!!?
接点を必然と考えるのなら、周涅が連れた理由は、大野香織が特待生だからということになる。
そして赤銅色の特待生専用のあの塾が、埃を被っていたことからも、大野香織以外もあの塾ではなく、この施設に連れていた可能性が高い。
大野香織以外。
そのひとりが――、
「紫茉ちゃん。その見えなくなった桜華の先輩も……黄幡塾の特待生だったよね?」
紫茉ちゃんはこくんと頷いた。
「玲様、周涅は……」
桜が紫茉ちゃんに聞こえないような、小さな声で話す。
「ああ、特待生に選んだ子をこうして機械にかけているんだろう。そしてこのベルトコンベアの終点が、小瓶に入ったものとなるのかもしれない」
つまり――
『ジクヨクナール』。
その核を担うのが、特待生として連れられ機械で粉砕された……彼女達。
それが、蠱毒たる薬の正体。
生き残りを賭けた殺し合いではなく、生きているうちに"最終"に選別されているのが、今回の蠱毒の特異性。
人を道具として使った今までの蠱毒は、怨恨などの悪感情を呪詛の源としていた。
しかし騙されて連れて来られた単体の彼女達に、呪詛たる特異な力を望めないはずだ。
優れている点と言えば――
特待生となりえる、塾の…試験の結果。
………。
「あの試験に……意味があったのか?」

