紫茉ちゃんの赤く染まった手が、アーチ状の大きな機械に入り込もうとしている、ベルトコンベアの"なにか"を、ひっぱり出そうとしていた。
それは――、
「玲、機械を止めてくれ。頼むから止めてくれ!!!」
人間の――
スカートを履いた女性の体だったんだ。
その頭部から上半身は機械に取り込まれており、紫茉ちゃんが引っ張っていたのは……腰から下、その下半身だった。
慌てて僕は、青色を身体に纏い……その機械に流れる0と1を止め、逆流させるようにして壊して止めた。
途端に鳴り響くサイレンは、機械の故障を知らせるものか、僕達侵入者を知らせるものか。
「間に合わなかったんだ…あたし、彼女を…救えなかったんだ!!」
ガクガクと身体を震わす紫茉ちゃんの手にあったのは、内蔵が飛び出た切断された下半身。
「紫茉ちゃん、大丈夫、大丈夫だから!!」
芹霞は死体から離れない紫茉ちゃんの手を離すと、自らの胸に紫茉ちゃんを抱いた。
紫茉ちゃんが泣きながら、芹霞の背の服を掴むようにして抱きつく。
血塗れのベルトコンベア。
その血の色は鮮やかで。
「これは……生きたまま?」
死体を検証している桜が、不快さに顔を歪めさせた。
「このスカートは制服のようですが……これは…」
桜の動きが止まった。
「どうした?」
ビリっと、布の破かれる音がすれば、桜が死体の服から何かを剥ぎ取ったらしい。
「玲様……これ…」
それは、名前が書かれた刺繍だった。
『大野香織』
「これは……」
つい最近見た記憶がある。
「……あれだけ、名前を連呼されれば、顔がなくても顔を思い出せますね…」
――覚えててね、大野香織!! じゃあね、大野香織だよ~!! 大野香織をよろしく~!!
赤銅色の……特待生用の塾で逢った少女か。
「特別会いたいとも思ってはいませんでしたが、まさか、こんな再会になるとは……」
桜は小さな声でそう言うと、伏せ目がちの目を横にそらした。

