シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



紫茉ちゃんの赤く染まった手が、アーチ状の大きな機械に入り込もうとしている、ベルトコンベアの"なにか"を、ひっぱり出そうとしていた。


それは――、

「玲、機械を止めてくれ。頼むから止めてくれ!!!」


人間の――

スカートを履いた女性の体だったんだ。


その頭部から上半身は機械に取り込まれており、紫茉ちゃんが引っ張っていたのは……腰から下、その下半身だった。


慌てて僕は、青色を身体に纏い……その機械に流れる0と1を止め、逆流させるようにして壊して止めた。


途端に鳴り響くサイレンは、機械の故障を知らせるものか、僕達侵入者を知らせるものか。


「間に合わなかったんだ…あたし、彼女を…救えなかったんだ!!」


ガクガクと身体を震わす紫茉ちゃんの手にあったのは、内蔵が飛び出た切断された下半身。


「紫茉ちゃん、大丈夫、大丈夫だから!!」


芹霞は死体から離れない紫茉ちゃんの手を離すと、自らの胸に紫茉ちゃんを抱いた。

紫茉ちゃんが泣きながら、芹霞の背の服を掴むようにして抱きつく。


血塗れのベルトコンベア。

その血の色は鮮やかで。


「これは……生きたまま?」


死体を検証している桜が、不快さに顔を歪めさせた。



「このスカートは制服のようですが……これは…」


桜の動きが止まった。


「どうした?」


ビリっと、布の破かれる音がすれば、桜が死体の服から何かを剥ぎ取ったらしい。


「玲様……これ…」


それは、名前が書かれた刺繍だった。



『大野香織』


「これは……」


つい最近見た記憶がある。


「……あれだけ、名前を連呼されれば、顔がなくても顔を思い出せますね…」


――覚えててね、大野香織!! じゃあね、大野香織だよ~!! 大野香織をよろしく~!!


赤銅色の……特待生用の塾で逢った少女か。


「特別会いたいとも思ってはいませんでしたが、まさか、こんな再会になるとは……」


桜は小さな声でそう言うと、伏せ目がちの目を横にそらした。