紫茉ちゃんが此処にいるのか?
紫茉ちゃんは危険なのか?
朱貴はどうしたんだ?
もしも。
この声が、僕達を誘き寄せる為のフェイクのもので。
あの観音扉を開けた先に、周涅や久涅が笑って待ち構えていたら。
美咲さんの命は無駄になってしまう。
贖罪を兼ねて、命を張って入れたあの人の、人としての"心"が意味のないものにされてしまう。
それは同じ人として、どうしても嫌だった。
命を貰って生き伸びた者は、その命の主の意思を継がねばならないと思うから。
それに周涅だって、自らの術を破られたということを面白くは思わないだろう。
あの男は、僕達よりも強大な力を見せつけて楽しんでいるフシがあるから、手段など選ばずより大きな力を用いて、僕達との実力の差を見せつけようとするかもしれない。
その時、切り抜けられるだろうか。
それに無効の力を持つ久涅とて、居れば黙っちゃいないだろう。
執着を見せる芹霞を、今度は真剣に奪いにくるかもしれない。
芹霞の心に占めるのが僕だけではなくなった今、僕を拒もうとしている今、先程のように久涅ではなく僕の傍らに立とうという芹霞の意思が見られなければ、その隙をついてくるような気がする。
そんなことが瞬時に頭を駆け巡ったけれど。
それは恐らく、僕の不安定な心が創り出す、妄想なのだろう。
惑わされてはいけない。
怖じ気づいてはいけない。
僕達は前に進むために、今この場にいるんだ。
「やめろ、やめろおおおおお!!」
さあ、声だけで見抜け。
真実の声は、必ず心が反応する。
僕の心は――
「「「行こう!!!」」」
皆と同じ、あれは紫茉ちゃん本人だとそう告げた。
信じる。
紫茉ちゃんはあそこにいると。
僕達は走り、大きな観音扉を桜が糸で切り裂いた。
「誰か、誰かあああああ!!!」
中央にある巨大な機械。
取り巻くように左右に動くベルトコンベア。
カタカタという音と共に、ガリガリガリという何かが砕かれたような音もしていたが、やがてそれは空回りしている音に変わる。
長い黒髪を振り乱す、長身の後ろ姿。
人影はそれしか見当たらない。
「紫茉ちゃん!!!?」
芹霞の声に、その人物は振り返る。
血飛沫を浴びて、涙でぐちゃぐちゃになった顔は、間違いなく……僕達が合流しようとしていた七瀬紫茉ちゃん。
その尋常ではない様子の彼女に、芹霞は僕を突き飛ばすようにして、地面に降り立ち……紫茉ちゃんの元に駆け寄ったんだ。
瞬時に失った芹霞の温もりを恋しく思いながらも、芹霞を追うように紫茉ちゃんの横についた僕達全員は――
「これは!!?」
思わず言葉を失った。

