「脱出成功!!」
延々と続いていた円環の終焉。
僕達は嬉々と最後の階段を降りる。
そして見えてくる、完全なる終点。
それは――
「なあに、このカタカタっていう音……」
不可解な音を響かせる、薄暗い一本道だった。
足元にはセンサーに反応するLEDの灯が点在しており、歩く分には影響はない。
ただもう左手にはドアがなく、長い一本道の終点……突き当たりに、観音開きの大扉があり、そこから僅かな光が漏れているのが判った。
そして音の発生源もそこだった。
カタカタカタ……。
「何の音だろう?」
「なにか……機械で運ばれているような音みたい」
「ベルトコンベアですか?」
「あ、そうそう。そんな感じ。小学校の時、社会見学の授業で見たお菓子の工場でもこんな音してた」
カタカタカタ……。
そう言われれば、ベルトコンベアのような音にも聞こえる。
この建物はなにか生産しているんだろうか。
……生産…。
「玲様。『ジキヨクナール』では? 元々此処に来たのは、その存在を朱貴から示唆されていたからですし、朱貴だって常に紫茉さん用にそれを常備していたのですから、現在進行形で作られている可能性は高いかと」
ふと頭に過ぎったその単語を口にした桜に、僕はそれを却下した理由を告げる。
「あの薬は一介の製薬会社が開発した市販薬だ。因果関係が立証されているわけでもないのに、人体に多大な被害を出すものとして既に回収され、政府から生産停止が告知されている代物だ。それが今尚こんな電力量を放って、開発続けるなど……」
不意に思い出したのは、美咲さんに案内された時の看板。
『アレート製薬研究所』
もしも、被害を出す風邪薬としてではなく、特定の効果を出す改良薬を開発出来る、知識と設備があるのなら。
「桜の言う通り、アリだ」
作られていた薬にどの程度『ジキヨクナール』の名残があるのかは判らないけれど、その研究所の主任だった美咲さん。
おかしな人種に嫁いだとはいえ、紫堂当主の妹がこんな場所に役付きでいるということは、意味があったのではと思う。
この研究所の名前は、紫堂系列のものにはないけれど、紫堂が薬と医療分野で発展してきた財閥なら、無関係だともいいきれない。
薬に含まれるという蠱毒は…紫堂の入れ知恵なのだろうか。
しかし美咲さんは、僕にUSBメモリを返したくらいなのだから、次期当主に再任した僕の研究に多少なりとも関わっていたはずで。
え、薬と僕の研究は…接点があるのか?
彼女から真実を聞くことは出来ないのが、痛い。
その時だったんだ。
「ぎゃあああああああああ!!」
「やめろおおおおおおおお!!!」
突如聞こえてきた、2種の女声の悲鳴。
それはその場の空気を一瞬にして変えた。
悲鳴があがったからというよりは、
最後の、制するようなその声が――。
「紫茉ちゃん!!?」
紫茉ちゃんの持つものと同じに聞こえたから。

