「1行目、つまり上の階では……「◎」の部屋から立て続けに右に3つ進んだ先に階段が、」
γ↑Sμγ→SμK◎γ←SμCH□R●CH◇γ□
「2行目、この階では……「◎」の部屋から立て続けに左に3つ進んだ先に階段があったね」
K◆γ↑SμαNZμN□M↓GααKα←Z◎Tα
「3行目、下の階では……。起点から…また11歩の部屋から、立て続けに矢印の回数……4つ進んだ先に階段があると推測出来る」
βεTαβεK□γ←Sμγ↓Sμγ↑SμK◎γ↓S
「そして進むドアの方向は……多分"奥"」
階段を下りながら、僕は言った。
「え、なんで奥と思ったの、玲くん」
「1行目と2行目の暗号で進んだ方向というのが、「◎」の左側にある矢印の向きだから。共通性を採用してみた」
念のため、この階も距離を測る。
気持ちいいくらいにぴったり一周分のリスの歌。
なんだかリスという生き物が、偉大な気がしてきた。
………。
「どうしました、玲様」
「ん……。今、頭の中で、小リスが腰に両手をあててふんぞり返ってさ、小さな鼻をひくひくさせて得意げになっている顔が思い浮かんで……」
「リスってそんな生物だったかい、師匠」
「いや……カリカリかクルクルしか、イメージないけど…」
なんてファンシーな僕の頭。
こんなことを想像するようになってしまった僕は、現実逃避するほど心が弱っているのだろうか。
愛の欠乏なんだろうか。
ちらりと芹霞を見るけれど、芹霞はなにかを想像して笑みを浮かべている。
なにを思っているのだろう。
……櫂、とか?
ああ、本当にもう。
嫉妬に吐き気がしてくる。
苛立つ心を抑えながら、起点を探し出す。
まだ嬉しそうにしている芹霞に、イライラ…。
なにを考えているのか気になって仕方がないのに、それを聞くことが出来ない僕は、邪推ばかりしてますます心が重くなってくる。
「起点はここから、「◎」はここの部屋。開けますね」
気づけば、僕の苛立ちに気づいたらしい桜が、少し上擦った声でてきぱき動き始めた。
ああ、桜に……気を使わせてしまった。
「ありますね、奥のドア。では、ここからずっと奥方向に4つ進めたら、暗号は全て解いたのも同然」
次の部屋にある奥のドアを桜は開く。
そこから立て続けにドアを開けて進めば――。
「師匠、ビンゴ」
階段はあった。

