「ねえ、師匠。一部だろうとリスの歌通りのドア配置。この建物は、リスの王国にでも建てられたものなのかなあ?」
由香ちゃんは酷く神妙な顔をして尋ねてきた。
「リスの王国なら、こんなに大きく凝った建物の作りにしなくてもいいと思うけど? せいぜい……"くるくる"でいいと思う」
リスやらハムスターやらが賢明に駆けて回す、水車のような玩具。
あれもまた、自ら動きを止めない限りは、無限に続く円環。
「………なんだか、似てますね、今の私達と……くるくるのリス」
桜がぼそりと呟いた。
「ここからでれない限りは、どこまでもくるくるくる…」
――あはははは~。
皆が顔を歪めた。
「意地でもここを出ようね、皆!!」
「そうだね、由香ちゃん。あたし達はリスじゃないもん!」
「そうそう、リスの気持ちになっているだけの、邪気眼をもっただけの人間さ!」
「うんうん、リスは邪気眼なんてもってないものね。……もってないよね? リスに超能力があったらそれ、リスじゃないから。妖怪」
……。
なんだろう。
微妙に傷ついたようなこの心。
僕は人間だというのに。
芹霞とのことで、なんでも過剰反応してしまうようになったんだろうか。
「とにかく、リスの歌を歌って続きを……」
由香ちゃんが話を戻した時だった。
おかしな……小さな旋律が聞こえてきたのは。
「ニャニャニャニャニャニャニャ~♪」
………。
皆黙したまま、桜の横を見た。
行進する由香ちゃんに代わり、桜が肩からぶら下げた……眠りに入って今までおとなしかったネコカバンを。
「ニャ~ニャニャニャ……」
瑠璃色の目をしたネコが、全員の視線に気づいて、慌てて目をぎゅっと閉じた。
「おい、ネコ寝入り。起きているのならなにか協力しろよ」
由香ちゃんがその額にデコピンするが、白いふさふさな美顔を痛みに歪めさせたくせに、ひくひく震える目を開けようとしない。
由香ちゃんは大きく溜息をついた。
「協力する気がまったくないみたいだね」
ネコの手も借りたいほどに切羽詰まった状況は過ぎて検証段階に入ったとはいえ、自由気儘に活動始める化けネコの生態は、本当に怠惰の人間のもつもので。
――何。
本当にそっくりで。
意地でも目を開かない気でいるらしい。
所詮人間の言葉を話せないネコだし、これ以上の追い打ちはやめて僕達は、起点に戻り検証の続きをすることにした。
そう、氷皇の示すドアに行かねばならないんだ。

