シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




「ぶどうのみがしろいぞ、ゆれゆれ小リス…」


遠くなっていたはずの桜の声が、その手拍子に乗せて不意に大きくなる。

もう一周終わったらしい。


芹霞に抱きついている僕の姿に、桜の歌声が震え……だから僕は苦笑しながら、渋々芹霞から身体を離す。


きゅっと口を結んでいる桜。

僕に同情しているのかと思ったけれど、それとも少し違う。

元々無表情の桜だけれど、その顔は……。


「桜?」


何だか僕に苛立っているようで。

今までこんなことがなかった僕は、珍しい表情に驚いた。

それは研ぎ澄まされたような鋭いものではないにしても、それでも迎合するような好意的なものとはまた違う。

言うなれば……

嫉妬している"男"の表情に近いものがあって。


嫉妬?



「葉山?」


由香ちゃんが桜の肩を叩いた時、桜の表情が緩んだ。

驚いたような、戸惑ったようなそんな色に変わり、そしていつもの桜がそこには居た。


きっと櫂に嫉妬している僕の思い過ごしだ。

僕は桜までをも、男として……芹霞の恋敵として、意識をし始めてしまったのか。


いい大人が、本当に情けない。

心に余裕を持て。

まだ、絶望的だときまったわけではないんだ。

まだ、芹霞とはなにも話していない。

先入観だけで、事態を悪く思うな。


僕は何でもないというように無理矢理笑顔をつくり、そして話題を戻す。


「どうだった、リスの行進でなにか判った?」


判るはずないだろうな、と思いながらも。

しかし意外にも、八の字眉だった由香ちゃんは、興奮したように僕に言った。


「判ったんだよ、師匠!!」

「えええ、判ったの!!?」

「そう、判ったんだ。3番までのこの歌……丁度ここ一周なんだ」


………。


どう返答すればいいんだろう。


別に2枚目の紙には、テンポが指定されているわけではない。

偶然だ。


だけど。


氷皇に、偶然が通用するか?


もしも、仮に一周分の長さを示していたとして、早さの指定なくして、それがどうして距離感を測るものとなりえる?


だが――。

距離感を示すとしたら、それは歩幅。

そして1拍に歌詞一文字、そしてひと足。


テンポは、せいぜい早歩き程度の早さになる。

そして、こんな行進を実行に移す者がいるとすれば、それは由香ちゃんか芹霞だろう。


氷皇が、芹霞を離さない僕の境遇を見越していたのかは判らないけれど、例え芹霞が歩いたとしても……由香ちゃんとの身長差はあるけれど、大体は同じぐらいの歩幅になるはずで。


「偶然でしょうか?」


同じことを気づいたらしい桜が僕に答えを求める。


「もしも一周分を歌が示していたとして。問題はその先だ。それがこの場所を突破する方法とは思えない」