どう考えても、おかしなリスの真似をして、この歌に合わせて行進したところで、暗号の意味が判るとは思えない。
大体、2枚目のこの歌の歌詞が、どうして堂々巡りのこの場所を突破出来る鍵となる?
それでも氷皇は、暗号に選んだ。
「歌詞ではないな。だとしたら、旋律?」
規則的な芹霞の手拍子は、きっちり4拍子。
それが関係するとか?
氷皇は"動け"と言っている。
今までの通り、頭を使って解くだけではないのかもしれない。
由香ちゃんは意気揚々と歩いてくる。
歌う芹霞の横を通り越してもまだ歩く。
「あの……由香さん、なにか判りましたか?」
桜の、心底困った顔が見物だ。
「二足歩行で行進して、リスはなにが楽しいのかな」
由香ちゃんの疑問に、誰もが黙ってしまった。
「本当にね」
芹霞だけがそれに強く呼応するけれど、別に二足歩行で行進するのが、リスではないから。
そう言いたいけれど、一生懸命考えている女性陣に、口を差し挟むことが出来ない。
意見するとすれば、代替案を出すしかないけれど、それが思い浮かばない僕は、小さく息をついた。
「全部歌いきったら、なにか見えてくるかもしれないな」
「じゃああたし、由香ちゃんと一緒に歌いながらついて……」
芹霞に回した手に、僕はぐっと力を込める。
離さない。
悟った芹霞は再び項垂れる。
「由香さんひとりでは危ないですから、私がついていきます」
「葉山は最後まで歌えるのかい?」
「え、歌わないといけないんですか!?」
「勿論だよ!! ボクはリスとして歩くんだから、補佐してよ」
桜はちらりと芹霞を見るけれど、僕は更に芹霞を引き寄せて、桜の申し出を拒否すれば、桜の大きな目が大きく揺れた。
「桜の歌声は、学園祭で聞いた。お前は音痴じゃないから安心して」
にっこりと笑ってそう言えば、桜は観念したように目を伏せる。
そして由香ちゃんと、歌う桜は連れだって消える。
廊下に残された僕と芹霞。
居たたまれないらしい芹霞が、上擦った声で話しかけてくる。
僕は静かに芹霞をうしろから抱きしめて、返事の代わりに……僕の想いを肌で伝えようとした。
芹霞の肩に顔を埋めて、やりきれない想いを吐息に乗せる。
それにびくりと揺れた芹霞が、身動ぎしても……僕は胸の中にすっぽりと囲い込んで離さなかった。
身体はこんなに近いのに、どうして心が近く感じないのか。
コンピュータみたいに、ボタンひとつで心のパラメーターが即座に表示されるのなら、ここまで煩悶しなくてもいいものを。
芹霞の心の中を円グラフにしたら、心を占める僕と櫂の割合はどれくらいなんだろう。
突如割り込んで来た櫂という存在に、心はどれだけの領域を……僕から奪っているのだろう。

