シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


どう考えても、おかしなリスの真似をして、この歌に合わせて行進したところで、暗号の意味が判るとは思えない。

大体、2枚目のこの歌の歌詞が、どうして堂々巡りのこの場所を突破出来る鍵となる?


それでも氷皇は、暗号に選んだ。


「歌詞ではないな。だとしたら、旋律?」


規則的な芹霞の手拍子は、きっちり4拍子。

それが関係するとか?


氷皇は"動け"と言っている。


今までの通り、頭を使って解くだけではないのかもしれない。

由香ちゃんは意気揚々と歩いてくる。


歌う芹霞の横を通り越してもまだ歩く。


「あの……由香さん、なにか判りましたか?」


桜の、心底困った顔が見物だ。


「二足歩行で行進して、リスはなにが楽しいのかな」


由香ちゃんの疑問に、誰もが黙ってしまった。


「本当にね」


芹霞だけがそれに強く呼応するけれど、別に二足歩行で行進するのが、リスではないから。


そう言いたいけれど、一生懸命考えている女性陣に、口を差し挟むことが出来ない。

意見するとすれば、代替案を出すしかないけれど、それが思い浮かばない僕は、小さく息をついた。


「全部歌いきったら、なにか見えてくるかもしれないな」

「じゃああたし、由香ちゃんと一緒に歌いながらついて……」


芹霞に回した手に、僕はぐっと力を込める。


離さない。


悟った芹霞は再び項垂れる。


「由香さんひとりでは危ないですから、私がついていきます」

「葉山は最後まで歌えるのかい?」

「え、歌わないといけないんですか!?」

「勿論だよ!! ボクはリスとして歩くんだから、補佐してよ」


桜はちらりと芹霞を見るけれど、僕は更に芹霞を引き寄せて、桜の申し出を拒否すれば、桜の大きな目が大きく揺れた。


「桜の歌声は、学園祭で聞いた。お前は音痴じゃないから安心して」


にっこりと笑ってそう言えば、桜は観念したように目を伏せる。

そして由香ちゃんと、歌う桜は連れだって消える。


廊下に残された僕と芹霞。


居たたまれないらしい芹霞が、上擦った声で話しかけてくる。

僕は静かに芹霞をうしろから抱きしめて、返事の代わりに……僕の想いを肌で伝えようとした。

芹霞の肩に顔を埋めて、やりきれない想いを吐息に乗せる。

それにびくりと揺れた芹霞が、身動ぎしても……僕は胸の中にすっぽりと囲い込んで離さなかった。

身体はこんなに近いのに、どうして心が近く感じないのか。

コンピュータみたいに、ボタンひとつで心のパラメーターが即座に表示されるのなら、ここまで煩悶しなくてもいいものを。


芹霞の心の中を円グラフにしたら、心を占める僕と櫂の割合はどれくらいなんだろう。

突如割り込んで来た櫂という存在に、心はどれだけの領域を……僕から奪っているのだろう。