だけどああ、やはり僕は卑怯で我侭で狡猾で。
心の奥底にあるどす黒い感情の存在を、否定出来ない。
今までだって芹霞を手に入れようと躍起になっていた。
これからまた、0のスタートラインで、僕に振り向いてくれる時間を待つ余裕が僕にはなかった。
不安と猜疑心と、そして微かな期待。
僕への今の愛を選んで。
櫂の愛を過去のものとして。
だから僕は――。
芹霞の中で蘇る櫂という大きな存在に打ち勝つために、その結果を早急に目にしたいがために、芹霞の同情という名の未練を利用しようとした。
両刃の剣の、別れの言葉。
芹霞が苦しまず櫂のことを思い出すことを願いながら、芹霞が僕との別れを受入れないことを願う。
矛盾。
芹霞がなんの思いを最優先するのか。
まだ僕への執着はあるのか。
僕への気持ちが、櫂への気持ちに塗り替えられていないのか。
瞬間的に生じた心こそ、真情なのだと。
だけど芹霞の記憶には、櫂への愛はなかった。
ゆえに芹霞は、僕の別れの言葉に激しく動揺し、別れることを嫌がる素振りを見せた。
そして僕の冗談として片付けようとしていて。
僕は選ばれたのだと、櫂との愛に打ち勝ったのだと……そんな充足感も達成感もなにもないまま、ただもやもやとした心だけが残留する。
そして芹霞の変貌。
元々芹霞の演技は下手だから、変化がわかってしまう。
芹霞は冗談として別れの言葉を流そうとしているのではなく、僕との会話を拒むようにして、明らかに素っ気ない作り笑いを始めた。
芹霞が僕との別れを却下してから僅かの間に、芹霞の心に変化が生まれ、凄く距離が出来たんだ。
寂しがるでもなく甘えてくるでもなく。
勿論泣くこともなく、ただ愛想笑い。
はっきりしたことを好む芹霞が、曖昧さに逃げようとしていた。
それの意味するところはなに?
ねえ、本当に櫂への愛は思い出していないの?
櫂への想いを思い出しているから、僕を避けようとしているんじゃないの?
僕を傷つけたくないから、フェードアウトにしようとしているんじゃないの?
聞きたくても、芹霞は逃げる。
芹霞の心が見えない。
僕は愛されてるの?
それともやっぱり櫂を愛しているから、僕はいらないの?
あんなに可愛く、独占欲を見せて抱きついてくれたのに、櫂の記憶が蘇ったら、夢のように忘れてしまえるの?
僕ってそんな程度?
逃げるのなら、逃がさなくするまで。
芹霞の本当の心を知りたい。
そして僕は、置かれた現実を粛として認識し、手を打たないといけない。
曖昧のまま、簡単に終わらされてたまるか。
僕は、蘇った櫂の想いに、負けたくはないんだ。
「神崎、こんな感じかい?」
「りすりす小リス~♪ うーん、もっと両手を元気に振った方がいいような…」
気づけば、向こう側に立つ由香ちゃんが、僕の膝にいる芹霞が手拍子をしながら歌うりすの歌に合わせて、こちらに向けて行進してくる。
"歌って動け"
本当に、歌のフリとして、リスの二本足歩行をしているらしい。
「本当に……これでいいんでしょうか……」
桜だけは懐疑的なようだ。

