シンデレラに玻璃の星冠をⅢ




だけどああ、やはり僕は卑怯で我侭で狡猾で。

心の奥底にあるどす黒い感情の存在を、否定出来ない。


今までだって芹霞を手に入れようと躍起になっていた。

これからまた、0のスタートラインで、僕に振り向いてくれる時間を待つ余裕が僕にはなかった。



不安と猜疑心と、そして微かな期待。


僕への今の愛を選んで。

櫂の愛を過去のものとして。


だから僕は――。


芹霞の中で蘇る櫂という大きな存在に打ち勝つために、その結果を早急に目にしたいがために、芹霞の同情という名の未練を利用しようとした。


両刃の剣の、別れの言葉。


芹霞が苦しまず櫂のことを思い出すことを願いながら、芹霞が僕との別れを受入れないことを願う。


矛盾。



芹霞がなんの思いを最優先するのか。

まだ僕への執着はあるのか。

僕への気持ちが、櫂への気持ちに塗り替えられていないのか。


瞬間的に生じた心こそ、真情なのだと。


だけど芹霞の記憶には、櫂への愛はなかった。

ゆえに芹霞は、僕の別れの言葉に激しく動揺し、別れることを嫌がる素振りを見せた。

そして僕の冗談として片付けようとしていて。


僕は選ばれたのだと、櫂との愛に打ち勝ったのだと……そんな充足感も達成感もなにもないまま、ただもやもやとした心だけが残留する。


そして芹霞の変貌。

元々芹霞の演技は下手だから、変化がわかってしまう。


芹霞は冗談として別れの言葉を流そうとしているのではなく、僕との会話を拒むようにして、明らかに素っ気ない作り笑いを始めた。

芹霞が僕との別れを却下してから僅かの間に、芹霞の心に変化が生まれ、凄く距離が出来たんだ。


寂しがるでもなく甘えてくるでもなく。

勿論泣くこともなく、ただ愛想笑い。


はっきりしたことを好む芹霞が、曖昧さに逃げようとしていた。



それの意味するところはなに?

ねえ、本当に櫂への愛は思い出していないの?

櫂への想いを思い出しているから、僕を避けようとしているんじゃないの?

僕を傷つけたくないから、フェードアウトにしようとしているんじゃないの?


聞きたくても、芹霞は逃げる。


芹霞の心が見えない。


僕は愛されてるの?

それともやっぱり櫂を愛しているから、僕はいらないの?


あんなに可愛く、独占欲を見せて抱きついてくれたのに、櫂の記憶が蘇ったら、夢のように忘れてしまえるの?


僕ってそんな程度?


逃げるのなら、逃がさなくするまで。


芹霞の本当の心を知りたい。

そして僕は、置かれた現実を粛として認識し、手を打たないといけない。

曖昧のまま、簡単に終わらされてたまるか。


僕は、蘇った櫂の想いに、負けたくはないんだ。



「神崎、こんな感じかい?」

「りすりす小リス~♪ うーん、もっと両手を元気に振った方がいいような…」


気づけば、向こう側に立つ由香ちゃんが、僕の膝にいる芹霞が手拍子をしながら歌うりすの歌に合わせて、こちらに向けて行進してくる。

"歌って動け"


本当に、歌のフリとして、リスの二本足歩行をしているらしい。


「本当に……これでいいんでしょうか……」


桜だけは懐疑的なようだ。