シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「馬鹿ね……玲、わたしのために……泣くなんて…」


玲くんに向けられる、消え入りそうな声。


「ここを抜けても…建物は迷宮…。だけど必ず抜けれるはず…。だってねえ…。貴方は昔のように…ひとりじゃない」


目の前で、確実に失われていく、命の灯火。


あたしはそれを見たくなくて、泣きじゃくって美咲さんをゆすぶった。


そして。


「玲を……頼むわね…」


目を閉じた美咲さんは――


「いやあああああああ!!」


がくりと力が抜けたようにして――。





絶命したんだ。



同時に薄れ行く景色。



周涅が作った迷宮が…

あたし達を惑わし続けたあの迷宮が…


いとも簡単に消えていく。



真っ赤な真っ赤な美咲さんは、

まるで少女のように微笑んで――


そして迷宮諸共、その姿を消していった。


どうして死体が消えるのだとか。


そんな物理的な問題はどうでもいい。


彼女の意思が、彼女の命が。

術と同化して消えただけ。


彼女の生はなんだったんだろうか。


あたしは思わずにはいられない。


彼女も生まれながらの犠牲者だった。


紫堂に、皇城に。


だけど最後の最後に抵抗し、周涅の力に勝ったことは、彼女の生きた意味だと、あたしは心に刻みたいと思う。


玲くんを苦しめた彼女の行いは、死したあとも決して美化されることがないけれど。


それでも彼女の償いは、永遠にあたし達の心に残る。


ならばせめて。


蛆にまみれた姿ではなく――。


あたしが嫉妬したほどに美しいあの姿のまま……


あたしは、紫堂美咲という女性を心に留めたいと思う。



「行こう」


前進を促す玲くんは、どう思っているだろう。

そんなこと、聞くだけ野暮だろう。


彼女がくれた命で、あたし達は助かった。

それが現実。


ならば――。


あたし達は、前に行くしかない。

何処へと続くかわからない道なれど。



怒りをバネにして、歩くしか。