「馬鹿ね……玲、わたしのために……泣くなんて…」
玲くんに向けられる、消え入りそうな声。
「ここを抜けても…建物は迷宮…。だけど必ず抜けれるはず…。だってねえ…。貴方は昔のように…ひとりじゃない」
目の前で、確実に失われていく、命の灯火。
あたしはそれを見たくなくて、泣きじゃくって美咲さんをゆすぶった。
そして。
「玲を……頼むわね…」
目を閉じた美咲さんは――
「いやあああああああ!!」
がくりと力が抜けたようにして――。
絶命したんだ。
同時に薄れ行く景色。
周涅が作った迷宮が…
あたし達を惑わし続けたあの迷宮が…
いとも簡単に消えていく。
真っ赤な真っ赤な美咲さんは、
まるで少女のように微笑んで――
そして迷宮諸共、その姿を消していった。
どうして死体が消えるのだとか。
そんな物理的な問題はどうでもいい。
彼女の意思が、彼女の命が。
術と同化して消えただけ。
彼女の生はなんだったんだろうか。
あたしは思わずにはいられない。
彼女も生まれながらの犠牲者だった。
紫堂に、皇城に。
だけど最後の最後に抵抗し、周涅の力に勝ったことは、彼女の生きた意味だと、あたしは心に刻みたいと思う。
玲くんを苦しめた彼女の行いは、死したあとも決して美化されることがないけれど。
それでも彼女の償いは、永遠にあたし達の心に残る。
ならばせめて。
蛆にまみれた姿ではなく――。
あたしが嫉妬したほどに美しいあの姿のまま……
あたしは、紫堂美咲という女性を心に留めたいと思う。
「行こう」
前進を促す玲くんは、どう思っているだろう。
そんなこと、聞くだけ野暮だろう。
彼女がくれた命で、あたし達は助かった。
それが現実。
ならば――。
あたし達は、前に行くしかない。
何処へと続くかわからない道なれど。
怒りをバネにして、歩くしか。

