「似てますね…」


あたりを見渡していた桜ちゃんがぼそっと呟いた。


「朱貴の"八門の陣"、陰陽道の布陣術に」


それは唐突過ぎて。

玲くんも由香ちゃんも、皆が桜ちゃんを見つめた。


「だけど朱貴の術とは様相が違う。私は何度もあの術によって助けられてきました。だからわかります。朱貴は出口に向かう正しい道を示してくれていますが、これは違う。だから朱貴の術ではないのでしょう」

「じゃあ?」


「さっきから引っかかっていました。この迷路のような場所に漂う独特な気……。これにかすかに覚えがあるような」


あたしは気というものは判らないけれど。

覚えがあるような感覚はあたしも感じている。


「実はボクもなんだよ!! じゃあ師匠も?」


しかし玲くんは困ったように笑いながら、頭を横に振って否定した。


「え、玲様には覚えがないんですか?」

「……うん。朱貴の術と似ているなとは思ったけれど、違うのはわかったし。それ以外に覚えはないな」


桜ちゃんは大きい目をさらに大きくさせた。

桜ちゃん…だけではなく、あたしも由香ちゃんも、完全に予想外だ。


「葉山と神崎とボクが感じて、師匠が感じないというのは…別行動していたということかい?」


あたし達は思いを馳せて、考え込む。


「「「あったっけ、そんなこと…?」」」


玲くんはまた、困った顔をする。


「僕は桜とは別行動をしていても、必ず芹霞か由香ちゃんがいたからね。それぞれ、違う時間帯で別々に感じたのかな」


玲くんの向けられる視線を、あたしはわざとらしくならないようにつとめて笑って流した。


「だけどこれが陰陽道の術に似ているのなら、朱貴以外に迷宮じみた世界を作り出せる奴はいたかい? 小猿くんは問題外として、ボクや神崎がそんな術かけられて放置された覚えもないし、放置されても師匠なみの力もった人がいなければ、ボク達は今この場にいないよ?」

あたしも同感だった。


「櫂様や煌と一緒とか?」


その時、思い出したものがあった。

それは救世主由香ちゃんも同じだったようで。


「あの時だ!! 最初の桜華で計都が来た後!!」

「そうだよ、神崎。師匠の心の奥に繋がったあの時!!」

「ああ、入り口たるロッカーから感じた気配だ!!」


そうだ。

櫂と一緒に、もうひとりの玲くんと出会うまでの道のり。

あの時も、下へ下へと降りているような緩やかな道で、十分惑わされていたじゃないか。


「あれ、でも確か葉山は……」

「私は、その時別口にて…朱貴の八門の陣で、その術者に会いに行きました」


あたしと由香ちゃんは顔を見合わせる。


「「その心は?」」



「七瀬周涅の…"九星の陣"を壊すために」