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「ねえ、本当に道あってるのかな」


足早に行けども行けども、同じような剥き出しのコンクリートの道ばかりが続く。

突き当りがなく、道なりがくねくね曲がっているから、本当に正しい新規の道筋を辿っているのかよく判らない。


進んでは戻り、戻っては進んで…周辺をぐるぐる歩いているだけで、結局あまり進んでいないような気もする。


あたしは元々記憶力というものには自信がないし、櫂との思い出が蘇った反動と、玲くんとのことでの煩悶に頭がぐだぐだ気味のせいもあり、逃走経路の全体図は頭で把握していなかった。


不確か過ぎる記憶力のくせに――

なんかこの雰囲気を経験したことがあるような…。


不気味な懐かしさがあるのが、さらに不気味。


しかしまあ、あたしの記憶力の覚束なさは実証済みで。

なにせあたしは、12年来の大事な幼馴染を忘れた薄情女だから。


不名誉な肩書きを返上し、以前のような信頼を取り戻すためにも櫂に関する細やかな記憶を取り戻し、完璧なあたしで櫂を迎えたい。

そのためには早くここを抜け出して、もっと落ち着ける場所で…他に欠けた記憶がないか、検証してみたいんだ。


終わらない迷路は、いつ終わるんだろう?


由香ちゃんの邪眼も正しい道を示すまでにはまだなっておらず、うーんうーんと眉間に皺を寄せて、なんかを捻り出そうと頑張っていたようだったけれど、やがて地面に座り込んでぐったりしてしまい、心配して身を屈めて顔を覗き込んだ桜ちゃんが背負う、化け猫の連続ネコパンチをうけていた。

化け猫は、救世主にも容赦ない。

これも試練の……ネコのムチ。

がんばれ、救世主!!


そんなコミカルな仲間達の明るさに相乗し、あたしもやけに笑いが多かった。

周涅と久涅から逃げ出しているという境遇を忘れるほどに。


明るければ、ノリで玲くんとも話せるから。

玲くんとの沈黙が怖くて仕方がない。


見透かしたかのような、鳶色の瞳がさらに透き通るようで。

淀んだあたしを映したくなくて、あたしは目をそらして玲くんの肩にいる美咲さんを見た。

彼女はまだおきる気配をみせない。


「ねえ、芹「こんなに歩いても、出口らしき終点が見えないのはなぜなんだろうね?」


怖い。

玲くんの声が、あたしの心をかき乱す。


話したくて仕方がなさそうな玲くん。

話したくなくて仕方がないあたし。


これではいけないのはわかっている。

だけどせめてもう少し先に。


櫂や煌が戻ってきたからでもいいでしょう?


弱いあたしは、逃げまくる。