俺が聞こえているものは、はっきりとした具体的な言葉として聞こえては来ていない。
次第にその言葉になっていくのだろうか。
「私達が使っていたのは、久涅や久涅が連れた異人が教えてくれたもので、この呪文は私達の身を守る為のありがたい言葉だった。恐ろしい術の呪文だということは聞いていた。だけど私達は全員が全員、力があるわけではない。
だから異人達は私達が呪言を唱えれば発動出来るようにと、あの塔がある場所の地下に作ったんだ。力が発現しやすくなる、増幅器を」
「増幅器?」
櫂が目を細める。
「ああ。あんた達の言葉で言えば、魔方陣」
俺達は顔を見合わせた。
魔方陣とは、"約束の地(カナン)"にもあった…木場にもあった、あれらと同じ種類のものなんだろうか。
そして小猿の兄貴を蘇らせているもののひとつか?
「その力が塔の力を増幅させて、あんた達に最初に見せた…侵入者を遠ざけるこの世界の守護者(ガーディアン)となる幻影となりえてたんだよ」
ああ、すげえ嫌な予感が胸をよぎる。
「櫂。まさかこいつら……。
久遠と同じ状況じゃねえよな」
口に出しては言えねえ。
"もしかして、魔方陣の力で生き長らえているのか?"
など。
ここの連中は、誰もが生きていると思っている。
俺らもそう思っている。
だからこいつらが焦がれる太陽がある――、
俺達が住む表世界に、共に生きていけるような…差別ない場所を作る方法を模索していたんだ。
櫂を筆頭に、まさにこれからという時に。
なんで魔方陣がこの世界にもある?
なんで増幅の役割が魔方陣でなければいけなかった?
櫂は答えねえ。
だが唇が微かに戦慄いているのが判る。
櫂も、信じたくはないんだろう。
この世界の住人は、既に死んでいるのだと。
もしそうであるならば――。
ここの住人は、この世界からは出られねえ。
どんなに外界に思いを馳せても、希望を持って外界に赴いた途端に、その身は朽ち果てる。
僅かな――
あってはならねえ可能性。
それは希望に模倣された…絶望だ。

