「なあ櫂。この中身が虚数として、なんでアホハット…五皇が持ってるんだ? あの見えねえ敵だって、万年筆で俺らに襲ってきたんだぞ? 五皇は実は敵か? まあ…緋狭姉だって敵となってはきたけどよ」
「そうだな…。皇城雄黄が裏世界に関わっていたからかもしれない。だから五皇が武器を持ち得た」
そして櫂はぶつぶつと、独りごち始めた。
「しかしその前身とでも言えるべき虚数の武器が俺達に向けられていたのはなぜだ? 本当に殺す気があったのか? いや待てよ。羅侯(ラゴウ)をどうにかしようとしていたら…。しかし配下には専用の術者が…。そこまで羅侯(ラゴウ)というものは重要な意味を持つのか」
その間僅か数十秒。
複雑な櫂の思考回路は、超速でなにかに思い至ったようで。
「煌、多分…表と裏と電脳世界は、3者が互いの世界で沈黙することで、今まで均衡が保たれていたんだ。
それを雄黄がその均衡を崩そうとしている」
思考回路が一直線の俺なら、絶対に、そんな結論には至らねえこと間違いなし。
「結果惹起されるのは、世界の歪み。同時に元に戻ろうとする反動力も加わったその大きな力を、利用しようとしていると思う。
まずは裏世界が試されている。電脳世界に押し潰された裏世界が、どれだけの力を返すか、それを見定めようとしている」
「は!!? 裏には沢山の人間がいるんだぞ!!?」
「人間達はその力の供物だ。目的の為の手段」
バアアアアン。
櫂は銃弾を装填したばかりの銃で、視界の端に映った青い光を撃つ。
「俺達でなんとか出来るのかよ、櫂!! 銃弾だって限りあるぞ!?」
「なんとかするさ!!」
櫂がきっぱりと言い切った。
「俺は約束したんだ!! ここの奴らを犠牲にして、保身で誰が逃げ帰るか!! このスクリーンの意味さえ判れば、何とか出来る!!」
毅然とそうは言うけれど。
スクリーンの意味を誰に聞くよ?
スクリーンがやばいくらいに増殖して、うねうねと本格的な迷宮を形成し始めている。
なんとかしねえと、この迷宮に裏世界自体が取り込まれそうだ。
取り込まれたあと、なにが起こるのか判らねえ。
だけど――
嫌な予感だけはしてくる。
なにか……スクリーンの奥から声が聞こえてくるんだ。
身もよだつような、おぞましい声の響き。
久遠の言霊とは、正反対の凶々しさ。
その声が段々と大きく聞え始めやがった。
誰も騒がない処をみれば、それは俺だけらしい。
その声が意味を持つ言葉として認識する前に、なんとかしねえといけないって、俺の本能が警鐘を鳴らしている。
更に増幅し続けている俺自身も、少し息が上がってきて、もうそろそろタイムリミットだと、櫂に目で合図を送る。
状況は悪くなるばかり。
しかし櫂は慌てず、不敵に笑ってきた。
櫂、お前――どこに勝算がある?
安全な時間も少し。
安全な銃弾も少し。
限られた条件の中で、スクリーンの意味をどうやって知るつもりだよ?
この中で、お前以上に頭のいい奴はいねえんだぞ?

