二組に分れたその戦闘は、何でなのか…煌との戦いを彷彿させた。
目に鮮やかで、耳にも煩いオレンジ色の大型犬と、過去幾度もこうした困難を互いに乗り切ってきた。
私と玲様という組み合わせは滅多にないものだけれど、馬鹿蜜柑とでさえ乗り切れた困難を、玲様と乗りきれぬはずはないと思う。
私は…役立たずな糸を捨てた。
糸という武器に頼りすぎる私。
その為に矜持が邪魔して、私の動きを制限している気がしたから。
あの馬鹿だって、捨て身で戦い勝利を得てきた。
ならば私だって!!
……なんでここに馬鹿蜜柑を比較に出してしまうか判らないけれど、困窮した状況な時ほど、あの脳天気さが……懐かしくなるのだろう。
敵味方関係なく、場の者達は私が糸を捨てたことに驚いているようだ。
ということは、そこまで私は武器にこだわりすぎていたということ。
たまには――
捨て身になったっていいじゃないか。
皆、そうやって貴方を守ってきたんだ。
ねぇ――芹霞さん?
肉体だけで、最初から戦うのは久しぶりだ。
そういえば、玲様と初めて戦った時も、素手だった。
いつから私は、コンプレックスな小さな体をカバーしようと、武器で武装始めたのだろう。
ああ、それを見抜いていたから緋狭様の教えは、糸を主とした攻撃方法ではなかったのか。
玲様に負けた時は悔しかった。
初めての"約束の地(カナン)"で、私はどうしても強くなりたいと思った。
時間が経った分だけ、私の強さになっているだろうか。
時間は止まっていなかっただろうか。
時間は無駄に過ぎ去っていなかったろうか。
――ふふふ、君が『漆黒の鬼雷』?
負けたくない。
強くなりたい。
全ては、玲様に負けた悔しさから始まったんだ。
玲様に負けたから今の私がある。
そしてその私は今、玲様と戦っている。
一段と強くなった玲様と、こうして肩を並べて。
なんだか――。
「は、葉山……笑っている…?」
何処かで遠坂由香の声が聞こえたような気がしたけれど、私には届かない。
届くのは、玲様の声。
「桜――、お前強くなったな」
純粋に嬉しいと思えるから。
そしてそうした"凄い"玲様を強さの指標としたのが、間違っていなかったことが嬉しい。
私は…なんて恵まれた環境にいるんだろう。
そう、環境なんて主観でどうとでも変化する。
今まで苦境に思えた現況は、私にとって嬉しい舞台と切り替わる。
心ゆくまで戦いたいと思ってしまう。
"男"として――。

