シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



二組に分れたその戦闘は、何でなのか…煌との戦いを彷彿させた。


目に鮮やかで、耳にも煩いオレンジ色の大型犬と、過去幾度もこうした困難を互いに乗り切ってきた。


私と玲様という組み合わせは滅多にないものだけれど、馬鹿蜜柑とでさえ乗り切れた困難を、玲様と乗りきれぬはずはないと思う。


私は…役立たずな糸を捨てた。

糸という武器に頼りすぎる私。

その為に矜持が邪魔して、私の動きを制限している気がしたから。


あの馬鹿だって、捨て身で戦い勝利を得てきた。

ならば私だって!!


……なんでここに馬鹿蜜柑を比較に出してしまうか判らないけれど、困窮した状況な時ほど、あの脳天気さが……懐かしくなるのだろう。


敵味方関係なく、場の者達は私が糸を捨てたことに驚いているようだ。

ということは、そこまで私は武器にこだわりすぎていたということ。


たまには――

捨て身になったっていいじゃないか。


皆、そうやって貴方を守ってきたんだ。


ねぇ――芹霞さん?


肉体だけで、最初から戦うのは久しぶりだ。

そういえば、玲様と初めて戦った時も、素手だった。

いつから私は、コンプレックスな小さな体をカバーしようと、武器で武装始めたのだろう。

ああ、それを見抜いていたから緋狭様の教えは、糸を主とした攻撃方法ではなかったのか。


玲様に負けた時は悔しかった。

初めての"約束の地(カナン)"で、私はどうしても強くなりたいと思った。


時間が経った分だけ、私の強さになっているだろうか。

時間は止まっていなかっただろうか。

時間は無駄に過ぎ去っていなかったろうか。



――ふふふ、君が『漆黒の鬼雷』?



負けたくない。

強くなりたい。


全ては、玲様に負けた悔しさから始まったんだ。


玲様に負けたから今の私がある。

そしてその私は今、玲様と戦っている。

一段と強くなった玲様と、こうして肩を並べて。


なんだか――。



「は、葉山……笑っている…?」


何処かで遠坂由香の声が聞こえたような気がしたけれど、私には届かない。

届くのは、玲様の声。


「桜――、お前強くなったな」



純粋に嬉しいと思えるから。

そしてそうした"凄い"玲様を強さの指標としたのが、間違っていなかったことが嬉しい。


私は…なんて恵まれた環境にいるんだろう。


そう、環境なんて主観でどうとでも変化する。

今まで苦境に思えた現況は、私にとって嬉しい舞台と切り替わる。

心ゆくまで戦いたいと思ってしまう。

"男"として――。